空からの監視:イスラエル国防軍のドローン

2015年5月11日

イスラエルにとって、情報セキュリティは国家の根幹に関わる最重要分野です。同国では、情報セキュリティという言葉が21世紀に従来の意味で登場する遥か前から、この分野が重視されてきました。イスラエルは南北に470㎞、東西に(最長で)135㎞の国土を持ち、近隣諸国と対立関係にあることから、建国以来、領域周辺100㎞圏内で何が起きているか把握することが国家安全保障の点で大変重要でした。

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これまで私は、イスラエルの情報セキュリティに対する取り組みについて、デジタル技術分野に焦点をあてて数多くの記事を書いてきましたが、今回は別の視点から見ていきたいと思います。

ドローンがメディアで取り上げられるようになったのは、ここ10年のことですが、軍隊ではそれよりもかなり前からドローンが導入されていました。たとえば、イスラエルでドローンが採用されたのは1969年です。現在も空からの防衛に活用され、地上では改修やアップグレードが行われています。

さらに、ドローンは同国の輸出産業を支える最も重要な製品で、インテリジェンスを備えた空飛ぶ警備員はロシアを含む多くの国へ輸出されています。1台あたりの価格は500万~1000万ドルにもなりますが、その価値は多分にあります。

ここで注目したいのは、ドローンには2種類あることです。1つは偵察タイプ、もう1つは戦闘タイプです。イスラエルは、前者の情報に関してはかなりオープンですが、後者については機密扱いにしています。リション・レジオン市近郊にあるパルマヒム空軍基地に所属するドローンオペレーターが、情報収集のみを目的とするドローンについて語ってくれました。なかなか興味深い話です。

軍の小さな支援者

1960年代に入ると、ドローンの利用はイスラエルにとって最も重要な課題の1つとなり、1969年にドローンを担当する部門が設立されました。最初の無人機は基本的に無線で操作するモデルで、一般的なカメラが搭載されていました。小型の無人機は国境を越えて空を飛び、写真を撮影したら基地に戻り、技術担当者がフィルムを現像していました。

国境の情勢が不安定な時期、このプロセスは24時間体制で実行されました。めったにない安定期には、無人機の飛行回数は1日数回程度でした。無人機はそれほど高く飛ばないために撃ち落とされやすいのですが、撃墜された機体に代わって新しいドローンがどんどん投入されていきました。

1973年の第四次中東戦争を受けて、無人機によるライブストリーミングの開発が決定しました。現在なら開発は簡単ですが、1970年代ではそれほど簡単ではありません

実はこの諜報活動の手法は、一般的な地図用の航空撮影とあまり変わりませんが、1点だけ大きな違いがあります。それは、ドローンが撃ち落とされても失うのは投資金だけで、同国にとって最も重要な資産である人間は失われないという点です。

もちろん、近隣諸国も指をくわえて見ていたわけではありません。1970年代、イスラエルが無人機で収集したデータだけを頼りにしていることを逆手に取って、エジプトは(旧ソ連のアドバイザーからの支援の下で)国境沿いの部隊の配備やミサイルランチャーの場所を絶えず変えていました。

そのため、ドローンが基地に戻ってからフィルムを現像しても、それは最新の情報ではありません。1973年の第四次中東戦争において、それはまったくうれしくないサプライズでした。そして、これが無人機にライブストリーミング機能を搭載する第1の理由となったのです。

現在ならライブストリーミング機能を実装するのは簡単ですが、当時のエンジニアにとってはかなり大変な作業でした。その頃、テレビや送信機器を搭載できるのは大型の運送用コンテナだけだったのですから。イスラエルは一時期、米国のドローンを購入していましたが、米国は敵対国の軍事演習を国境沿いで監視することについて一切問題視しませんでした(理由ははっきりしています)。

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米国初の無人機の模型

米国製無人機の目的はまず、敵対国のミサイル発射装置を発見して鎮圧するため、発射装置からの反応を引き出すことでした。また、米国製ドローンは基地まで戻ることができませんでした。飛行機や戦艦から飛び立ったドローンは、どこかへ静かに墜落し、回収を待つというスタイルでした。

こうしたドローンのモデルの1つであるTeledyne Ryan Firebeeは、水上に墜落してもしばらく浮くことができ、当時はかなりの高機能製品として販売されていました。そのため、こうした無人機を大規模に使用するのは、たいへん高価で割に合いませんでした。

こうして1979年、イスラエルはIAI Scoutというドローンを初めて開発しました。IAI Scoutは高く評価され、2005年までイスラエル軍で採用されたほか、いまでも利用している国があります。通常の飛行機として見た場合、当時は笑いの種でした。IAI Scoutは空虚重量96kg、ピストンエンジン搭載、飛行速度はわずか時速102kmでした。

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イスラエル初の無人機、IAI Scout

しかし、この無人機は7時間の連続飛行が可能でした。さらに凄いのは、望遠レンズを備えたテレビ級のTamamカメラを搭載し、リアルタイムの映像を地上へ配信できたことです。小型で高度4㎞まで上昇できるため、地上からの撃墜はほぼ不可能で、敵の戦闘機ですら撃ち落とすのが難しかったと言われています。

その後、ドローンに新たなメリットが見つかりました。無人機なら、もっと短い間隔でオペレーターの勤務を交代できるという点です。

当時、カメラから送信される映像は白黒でしたが、その後カラー対応のカメラが導入され、また完全な暗闇でも撮影できるようになりました。こうした技術の進化によって、それからしばらくの間、十分に安全性を確保できました。

しかし、1973年以降、イスラエルに大規模な戦争を仕掛ける敵国は減った一方で、新たな脅威が登場しました。戦争の脅威に代わって登場したテロリズムは、新たな課題をもたらしました。あらゆる方向から小規模な攻撃が絶えず仕掛けられるようになったのです。

無人機に新たな役割が与えられました。軍隊ではなく単独の車両や人間の追跡です。映像のストリーミングだけではもはや不十分で、対象を追跡し位置情報を取得する機能がドローンに求められました。

その後、ドローンに新たなメリットが見つかりました。無人機なら、より短い間隔でオペレーターの勤務を交代できるという点です。1人で1か所を5時間以上監視するとなると、注意力は当然低下します。無人機であれば、1回の飛行を複数のチームが交代で担当でき、それぞれのチームがしっかりした警戒態勢をとれるので、安全性を確保できます。

空の開拓者

この先ずっと旧式のIAI Scoutの改良を続け、最新の状態に保っていくのは明らかに無理でした。1992年、こうしてIAI Scoutに代わって新世代のIAI Searcherが登場しました。それから6年後、IAI Searcher 2という別の無人機が開発されました。IAI Searcher 2の翼幅は広く(前モデルの7.22mに対して8.55m)、連続飛行時間も伸び(前モデルの12~14時間に対して15~17時間)、より高く上昇できるようになりました(前モデルの4.5㎞に対して7㎞)。

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IAI Searcherの第1世代

主なメリットはモジュールベースの構造になっている点で、任務に応じてドローンを設定できました。強力なレーダーモジュールのおかげで、動画の撮影以外にも、地上部隊の指揮系統と連携しながらより詳しい偵察も可能でした。

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イスラエル軍のIAI Searcher 2

イスラエルの無人機格納庫は、近代化と拡張を継続しています。IAI Searcher 2以前ですら、IAI Heronという大型ドローン(翼幅16.6m)が開発されていました。初飛行は1994年でしたが、2005年になるまで販売が許可されませんでした。

IAI Heronは満タン時であれば最長46時間飛行でき、実質高度9kmまで上昇できます。2012年、IAI Heronは最も多く輸出されるイスラエル製無人機となり、1台あたり1,000万ドルという値段が付けられました。後継機のHeron TP(別名Eitan)は、翼幅が26m(民間機Boeing 737と同等)、連続飛行時間は36時間です。

ここで重要な点は、部品がすべてイスラエルで製造されていることです。それによって新たな雇用が生まれただけでなく、万が一に部品の製造業者を信頼できなかったとしても、海外からの輸入に頼らず製造できるのです。

ドローンの部品はすべてイスラエルで製造されています。ソフトウェア開発も、国内で行われています

武器の使い方と製造国の意図は必ずしも一致しません。そのため、製造国が部品の調達や、購入者への製品出荷を停止することもあります。イスラエルの無人機は、自国で製造されています。ある情報筋によれば、イスラエルは万が一に備えて、米国に出荷される米国航空機の詳細部品の一部も製造しているといいます。

ソフトウェアの開発も、自国で行われています。開発は、主に無人機製造業者が請け負っていますが、多くの機能は徴集兵や契約兵が更新、調整しています。

もちろん、ドローン自体は氷山の一角です。最新のドローンには地上管制局の機能が搭載されており、高額で販売されています。

ドローンで取得したデータは分析の対象であり、どこかに保存しなければなりません。そこで、データ保存ツールの出番です。面白いことに、ドローンが取得したデータは、ごくふつうのDVDに記録されるのが普通です。理由は、ストレージとして最も安価で信頼できるからです。

戦争と平和

ドローンは、大規模な軍隊と明確な戦闘地域がある従来型の戦争で役立っていました。現在の紛争は(比較的)平和な市民が住む人口密集地域で発生しており、無人機はまさに情報セキュリティのツールとなりました。

退役後、軍隊で得た経験をもとに起業する元兵士も出てくるでしょう。多種多様なドローンに注目が集まる現在、イスラエルの開発者には無限のチャンスがあります。ドローンは建設現場のクレーンの代替機としても真剣に検討されています。

ドローンは宅配便にも活用できると見られており、人間の宅配業者に普段がっかりさせられている人たちは、その可能性を大いに歓迎しています。ロバート・ハインライン(Robert Heinlein)の小説『夏への扉』の登場人物は、こう述べています。「トップシークレットの道具の素晴らしいところは、特許登録されないことだ」。当初は人命を守るために開発された技術が、人々の生活をより楽しくするための技術にもなるのは、素晴らしいことです。