レポート:サイバーセキュリティ業界のジェンダーギャップ解消に向けて

サイバーセキュリティ業界で働く女性の割合はわずか11%。この分野への女性の参画が遅れている理由を調べました。

人材不足が深刻化する中、サイバーセキュリティ関連の求人件数は、2022年に180万人に達する(英語)と見られ、サイバーセキュリティ業界は今、その主要な要因である一つの問題に取り組んでいます。それは、この業界で働く女性の割合が圧倒的に低いという問題です。

人気が高く活気のある分野でありながら、女性が占める割合はわずか11%です。Kaspersky Labは、女性とサイバーセキュリティ業界での仕事の間に立ちはだかる障壁について、オンライン調査を実施しました(英語レポート)。対象となったのは、大学を卒業、または大学在学中、あるいは大学進学の意思がある英国、米国、イスラエル、イタリア、オランダ、スペイン、フランス、ドイツの16~21歳の男女で、4,001名から回答を得ました。

なお、さまざまな要因が絡む複雑な問題であるため、この調査は単純な答えを求めることを目的とはしていません。また、当社はあくまでサイバーセキュリティ企業であり、問題の背景にある多様な、ときに錯綜した社会的要因について深く掘り下げることは、専門家に譲りたいと考えます。

始めに明確にしておきたいのは、スキルの差は性別(ジェンダー)と関係ないということです。調査の結果、若い女性たちがこの業界で仕事をするためのスキルを備えていること、社会におけるサイバーセキュリティの役割について肯定的な意見を持っている傾向があることが分かりました。しかし、そうした女性たちは、サイバーセキュリティ分野の仕事に就こうとは考えていません。その背景には教育上の問題と、ロールモデルの不在という、2つの要因があることが判明しました。

教育

若い人たちは、就職活動を始める前から将来の方向性について考える傾向があり、その方向性に合わせて選択科目を決めています。

調査では、男子は女子より数学とITを好み、これらの科目を選択する割合が目立って多いことが分かりました。数学を選択する割合は男子で49%、女子は36%、ITの場合は男子が21%、女子が7%という結果が出ています。数学とITは、サイバーセキュリティ分野の仕事をする上で基盤となる科目です。実際に、調査対象となった女性の57%以上が、サイバーセキュリティを職業に選ばない理由として「プログラミング経験がないこと」を挙げています。

女子生徒や若い女性の理工系分野への関心を深めるサポートは、家庭でも学校でもできます。European Schoolnetのシニアアドバイザーを務めるジャニース・リチャードソン(Janice Richardson)氏は、次のように述べています。「学校の果たす役割は大きく、若い人たちがサイバーセキュリティの面白さややりがいを理解したなら、サイバーセキュリティは職業の選択肢として魅力的なものとなるでしょう」

リチャードソン氏はさらに、サイバーセキュリティ分野の仕事を目指すべきか否かについて子供にアドバイスできるほど十分な情報を持っていない、とする親が4人中3人に上ることを指摘しています。また、男性やメディア、世間一般が抱く女性のステレオタイプや女の子に「ふさわしい」職業といった先入観を打ち砕くことも不可欠だと述べています。

親や教師、学校側が指導して、子供たちをとっつきにくい理工系分野へ導く機会を与えれば、職業選択の意思決定や行動を起こす前に、彼らの関心をサイバーセキュリティ業界へうまく向けることができるかもしれません。調査対象の若い女性たちが職業について考え始めた平均年齢は、16歳になる少し前でした。

ロールモデル

サイバーセキュリティ業界に女性のロールモデルや影響力のある人物が目立って少ないことが、女性の参画を遅らせています。若い人たちの69%が、サイバーセキュリティ業界で働く女性に会ったことがないと答え、会ったことがあるとの回答はわずか11%でした。この差は明確な影響を及ぼします。サイバーセキュリティ業界で働く女性に会った後では、63%の女性がこの業界をより肯定的に考えるようになりました。

ロールモデルの不在は、業界で働く女性の数が少ないほど業界の女性が減っていく、という悪循環を引き起こしかねません。Deloitteのサイバーリスク担当ディレクターを務めるジャッキー・フォックス(Jacky Fox)氏は、教育が重要な要因であることは確かだがそれだけではない、と指摘しています。技術的な知識や経験は採用の際に有利な材料になりますが、職場の包摂的な受け入れ態勢も見過ごせません。「自分たちが少数派ではないと感じる分岐点は、全体の3割を占めたときだと言われています….いわゆる『ブログラマー』(訳注:男らしさを強調するプログラマーを指すスラング)の文化や軍隊式の言葉遣いは、女性たちに不快感を起こさせる可能性があります。当社では採用活動の際、ジェンダーの中立性に配慮しています。私がテクノロジー業界で働き始めた頃は、女性のロールモデルが非常に少なかったのですが、現在Deloitte Irelandのサイバーチームは30%が女性です」

逆の発想で捉えれば、今、この業界にいる女性たちが道標となって若い女性たちを呼び込むことができるとも言えます。サイバーセキュリティが魅力的な仕事であることを広め、ロールモデルとなり、若い女性たちを導いていくのです。

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