進化する車と人間の関わり方:未来の技術で車はどう変わる?

2014年12月16日

自動車業界は、保守的なことで有名です。そもそも車は「危険」なものであることを考えれば、無理もないでしょう。乗り物のような危険性をはらむ機械は、大胆な試みに向かない分野なのです。カーラジオが登場したのは1930年代。自動車が生活に欠かせない存在となってから何十年も経ってからのことです。

その後も自動車の事情はあまり変わっていません。スマートフォンやタブレットなど、さまざまなガジェットが日々進化する中で、自動車業界はそれを傍観するばかり。タッチ画面、生体認証、ジェスチャー制御の時代に入って15年ほど経つというのに、車は未だに4輪で走り、ハンドルも1つ、手動の制御装置も2つか3つです。 

Cars'-dashboards

もちろん、業界自体はそれほど時代遅れというわけではありません。エンジンとステアリングシステムは、いずれも最先端のデジタル技術を駆使し、劇的な進歩を遂げています。もっとも、こうした変化は車の内部構造に対して行われるものなので、一般の利用者からは見えません。たとえばエンジン効率が改善された、燃費がよくなった、新しいスタビライザーが実装されたといった形であらわれるのです。その一方で、ドライバーと自動車の最初の接点である「ユーザーインターフェイス」は、明らかに時代遅れのままです。

今後数年間、自動車メーカーは大きなジレンマに直面することになるでしょう。消費者からのプレッシャー、安全基準、経済性との間でバランスをとらざるをえないのですから。そこで、自動車のインターフェイスがどう進化するのか、そしてこうした動きによってどのような可能性と懸念がもたらされるのか考えてみたいと思います。

ディスプレイがダッシュボードの代わりに

デジタルネイティブ世代である現代の幼児は、ごく普通のテレビ画面でスワイプやピンチズームをしようとします。この傾向を踏まえ、ついにタッチ対応ディスプレイが車載システムに搭載され始めようとしています。

タッチ対応ダッシュボードへ切り替えるメリットは明白です。メニューが多層構造になっているおかげで、エアコンの調整、エンターテイメントのオプション、その他さまざまな機能を同じ画面にまとめられます。さらに、機械の変更はコストがかかりますが、この場合ならファームウェアをほんの少しアップデートするだけでインターフェイスを改良できます。

ただし、同じく欠点も明らかです。ダッシュボードを実際に見ながらでないと操作できないため、操作中は注意散漫になり危険性が高まります。車に手動の制御装置が装備されていた時代は、エアコンの温度設定を変えたり車載マルチメディアシステムで曲を切り替えたりするのも、動作1つで直感的に行えました。もう、そんな操作ともお別れです。ダッシュボードのボタンは、道路から目を離さないかぎり確認できません。そして、メニューが多層構造となっているがために、デジタルダッシュボードの多彩な機能に気づかないままのドライバーもいるくらいです。

直感的な操作を残しながら、注意散漫になりにくい画面のサイズと位置について考えてみましょう。高級車に搭載されている7~9インチディスプレイは、今では十分な大きさとは言えません。とはいっても、Teslaに搭載された巨大な17インチディスプレイでは、多くの人にとって大きすぎです。

おそらくは、時間をかけてその大きさに慣れていくのが良いのでしょう。もしかすると、デジタルダッシュボードはスマートフォンと同じ道を辿るかもしれません。ここ数年でモバイルデバイスの画面サイズは倍近くになりましたが、人々は新しい基準に慣れていきました。何年も前には3.5インチのiPhoneを巨大に感じた人たちがいたものですが、今ではその同じ人たちが、ひときわ大きくなったファブレットを持ち歩いても問題だとは思っていません。

音声による制御

直感的な機械制御がなくなったかわりに、業界の設計者は別のネイティブインターフェイスを実装し始めました。その主たるものが音声入力です。ドライバーの注意を路上からそらさせない音声制御は安全運転の最善策である、というのは常識です。電子部品が安価になったのを受け、音声制御システムは高級車だけでなく低コストの自動車にも搭載されるようになっています。

このような背景のもと、AAA Foundation for Traffic Safetyの依頼でユタ大学が調査を実施したところ、面白いことがわかりました。調査で検証されたのは、運転中に音声制御システムを使ったときのストレスレベルです。被験者は、エアコンの設定温度を変える、車載エンターテイメントシステムで曲を変える、音声入力でSMSメッセージを作成する、音声認識でメニューを操作する、などさまざまな難易度の操作を行いました。

まずわかったのは、音声制御システムの品質にばらつきがあるということです。テスト対象のシステムで注意散漫レベル(合計ポイント)を計測したところ、最も評価の高かったシステムと最下位のシステムとでは歴然とした差があり、トップが1.7ポイントで、最下位は3.7ポイントでした。参考までに、ラジオを聴くときの注意散漫レベルは1ポイント、ハンズフリー電話で話すときは2ポイントになります。また別の安全運転推奨団体である米安全性評議会(National Safety Council)は、注意散漫レベルが2ポイント上がると自動車事故の確率が4倍になるとしています。

2つ目にわかったことは、最も「直感的」な電子制御であっても、ドライバーにとっては注意散漫の大きな原因となるという点です。ドライバーは、ハンドルをしっかり握った状態でまっ直ぐ前の道を見ていたのですが、人間の脳はもともとマルチタスクに対応していないので、別の「信号」によって注意が奪われると、突然の環境変化に素早く対応できませんでした。

運転中のドライバーのリスクは、デジタルシステムの操作の難易度が上がるほど高まります。たとえば、多層構造メニューを操作する、音声認識機能や音声コマンドを使用するなどの操作は、ドライバーを危険にさらしかねません。新しい技術には不備が付きものです。訛りや発話障害などで発話音声が不完全になったりすれば、なおさらです。

ヘッドアップディスプレイ

ドライバーの安全性を高めるための技術の中で、ヘッドアップディスプレイ(HUD)という有望な技術があります。当初は高級車のプレミアムオプションという位置づけでしたが、今ではさまざまなサードパーティプロバイダーから提供されています。さらには、スマートフォンやディスプレイに後方映像を表示する特別設計のアプリまであります。

HUDは、衛星ナビのデータや速度計情報などのコンテンツを表示するために使われるのが一般的です。この素晴らしいツールの大きなメリットは、必要な情報を「目線の高さ」に表示できるので、ドライバーが注意をそらされないで済むことです。

道路情報や標識の横に広告を表示する、というマーケッターのプランも、非常に危険

残念ながら、この技術にも難点があります。コストパフォーマンスを重視する製品だと、天気のよい日は太陽が反射するせいで画質が落ちてしまうことがほとんどです。もう1つ、技術が完成してもHUDソリューションでは克服できない根本的な問題があります。人間の場合、フロントガラスから道路へ目の焦点を切り替えるには、少なくとも0.5秒かかり、目の順応性に問題がある人の場合はさらに長くかかります(長くても数秒)。こうしたドライバーが猛スピードで運転すれば、道路が危険な状況になってもすぐに反応できないかもしれません。

焦点切り替えの問題は、ホログラフィック技術で解決できる可能性があります。ロシアの新興企業WayRayが積極的に売り込んでいるシステムも、その一例です。このシステムでは、ドライバーの目線の十数メートル先にAR(拡張現実)映像が投影されて、道路上の重要な物体はここに可視化されます。

問題は、WayRayが出荷開始日を何度も延期しており(現時点で初回の出荷予定は2015年初頭)、この発明は簡単に実現できるコンセプトではないかもしれないとの疑念を抱かせている点です。また、道路情報や標識の横に広告を表示する、というマーケッターの夢のプランも、非常に危険です。

技術革新が日常生活のあらゆる面(運転を含め)で質の向上をもたらすことは、間違いありません。新たな進歩によって、自動車操縦は、より安全で便利なものへと変わりつつあります。課題は、こうした革新や進歩をうまく調整することです。過剰に装置を取り付けることで、意図したものとは反対の効果を招きかねないためです。

現代の消費者には、評価しきれないほどの情報がいつも与えられています。自動車メーカーは、最新技術の市場展開を慎重に計画する必要があります。難しい運転技術や未熟なドライバーを全面的に支援できるような、本当に効率的なソリューションが市場に登場するまで待つのが、一番よいのかもしれません。