宇宙のインターネット:火星にインターネットは存在するか?

ISSにインターネットはあるのか、どうやって通信するのか、火星からメッセージを受け取るにはどのくらいかかるのか — 現在、そして未来のネットワークについて。

インターネットは、ほぼ地球の隅々まで行き渡っています。地表だけでなく、飛行機の中でも、国際宇宙ステーション(ISS)でも、インターネット接続が可能になっています。各国の宇宙開発機関は、太陽系のその他惑星でもインターネット接続を可能とするべく取り組んでいます。宇宙のインターネットは、仕事や研究のためだけではありません。母なる地球から遠く離れて暮らす人々が、故郷と連絡を取るのにも役立ちます。今回の記事は、宇宙のインターネットの仕組みとその開発についてです。

 

ISSのインターネット

ISSの乗組員が初めてインターネットにアクセスしたのは2010年(英語記事)、アメリカ航空宇宙局(NASA)が提供するアクセスサービスを通じてのことでした。宇宙飛行士たちは、衛星通信を通じてヒューストンにあるコンピューターへリモートデスクトップ接続し、そこからインターネットにアクセスします。この方法ならば、乗組員が悪意あるリンクやファイルを開いてしまった場合でも、セキュリティを侵害されるのは地球上のコンピューターだけで済みます。

NASAの宇宙飛行士であるT.J. クリーマー(T.J. Creamer)氏は、初めて他人の力を借りずに宇宙からツイートして、ISSにインターネットがもたらされたことを称えました。

ロシアによる宇宙のインターネット

ISSのインターネットプロバイダーは、近々増えるようです。ロシアも、ISSの自国モジュールを早急にインターネットに接続しようと計画しています。実装には、現在アップグレード作業中の通信衛星「Luch」のネットワークが使われることになります。

大量の衛星データを受信できるように、宇宙飛行士のアレクサンダー・ミシュルキン(Alexander Misurkin)氏とアントン・シュカプレロフ(Anton Shkaplerov)氏が昨年、ISSのアンテナのアップグレードを実施しました。なお、このとき2人は宇宙船外活動時間のロシア最長記録、8時間12分を達成しています(英語記事)。

宇宙飛行士でRoscosmosの広報担当でもあるセルゲイ・クリカレフ(Sergey Krikalev)氏によると、この新しい機器はすでにテスト済みであり(ロシア語記事)、ISSは近いうちに人工衛星「Luch」経由でインターネットに接続できるようになります。

人工衛星が抱える問題

ISSでのインターネット接続は、当然ながら家庭で使うものほど速度が出ず、遅延も発生します。衛星通信には、有線技術より優れた点(ケーブルを使えない場所でも利用可能であるなど)がある一方で、課題もあります。

Ping値が高く、速度が出ない

ISSは高度400㎞付近の軌道を周回していますが、地球へ送られるデータはそれよりもずっと長い距離を移動します。ISSから発信された信号は、地上35,786 kmの位置にある通信衛星に向けて送信され、さらにその衛星から地上にある宇宙通信ステーションに向けて送られます。

したがって、ISS船内から送られるデータと、ISSに送り返される応答信号の移動距離は、合計15万km弱になります。これは時間がかかります。NASA職員によると、ISSとのデータのやり取りには約0.5秒の通信遅延(英語サイト)が生じるとのことで、ケーブル接続で発生する平均的な遅延(英語サイト)の約20倍にあたります。

また、宇宙飛行士は、Web閲覧のためだけに衛星通信を必要としているのではありません。大量の科学データや動画をミッションコントロールセンターへストリーミングするのにも使用しています(ちなみに、地上職員がこのような動画をインターネットに公開してくれるので、私たちもISSでの生活やそこからの景色を見ることができています)。地球との音声会議や動画会議にも、同じ衛星通信が使われています。

このため、ツイートやWebサイトの閲覧に使用できる帯域幅はほんのわずかです。さらに、衛星のダウンリンクは最高300mbpsですが、アップリンクは25mbpsに制限されています。速度に関しては、ISSで使用できる接続は旧式のモデムと変わりません。

そのうえ、ISSは定期的に衛星の通信可能範囲を離れます。地球を1周する1.5時間の間に一度、最大で15分間にわたって信号が受け取れなくなります(英語サイト)。

燃料が限られている

人工衛星は地球との通信を維持するため、地球とまったく同じ速度で周回し、常に上空の同じ地点に位置しています。それでも、衛星が軌道を外れて通信できなくなることのないように、ときどき軌道修正する必要があります。修正操作には推進剤が使われますが、衛星の場合、自動車や飛行機とは違って燃料補給のために地球に帰ってくることができません。

この問題を解決するため、宇宙空間で人工衛星に直接燃料補給する方法を、世界中の企業が模索しています(英語記事)。ISSの米国モジュールでは、カナダのMDA Corporationと英国のEffective Space Solutionsが、軌道への推進剤の配送を目的とするシステムをテスト中です。また、欧州宇宙機関(European Space Agency:ESA)は、地球の大気の上層部にある空気の分子を燃料に駆動するエンジンを開発しました(英語サイト)。

電力が足りない

推進剤の問題は、電力の利用である程度解決できます。電力利用で燃料の消費を抑えることができますし、電力はソーラーパネルで再生可能です。また、地球やほかの宇宙船との通信にも電力は必要です。人工衛星は時々地球によって太陽を遮られるため、駆動には電池を使っていますが、電池の容量には限りがあります。

ロシアの科学者たちは、電池切れとなった人工衛星を再充電するためのロボットを数十台、軌道上に配備する策(英語記事)を提案しました。ロボットの電力供給源は、太陽放射と、地球からの無線伝送です。宇宙船の寿命を1.5倍に延ばせるだけでなく、余分な電池やソーラーパネルが不要となるので衛星を軽量化することもできます。

オーバーヒートする

常にフル稼働している通信衛星には、オーバーヒートという問題があります。軌道空間には空気がないので、地上でコンピューターの冷却に使われているファンは役に立ちません。宇宙空間は地球の表面よりも温度が低いのですが、実際のところ、放熱は地上でよりも難しい問題です。

宇宙船や衛星は、大型のラジエーター(放熱器)を使ってオーバーヒートを防いでいます。人工衛星が強力であるほど、冷却に必要なラジエーターは大型化します。新世代の25 kW級通信衛星を冷却するために開発されたラジエーターは、4m x 1mという巨大なものでした(英語記事)。

宇宙線が飛んでくる

電子機器を妨害する宇宙線も問題です。地球上では地球の磁界や大気に守られていますが、軌道上ではそうはいかないので、宇宙船で使用する電子部品は宇宙線に耐えられるように設計されています。それでもなお、宇宙線は人工衛星にとって大きな問題です。

宇宙飛行士のパーヴェル・ヴィノグラードフ(Pavel Vinogradov)氏は、ISSモジュールがしっかり保護されているにもかかわらず、ISSではノートPCがあっという間に使えなくなると述べています(ロシア語記事)。カメラもそうで、すぐに画像のあちこちにデッドピクセルが現れるようになります(英語記事)。さらに、宇宙線は人工衛星が発信する信号に著しく干渉し(英語記事)、船内デバイスのメモリ部分にダメージを与える場合があります。

放射線vs.暗号化

地球と宇宙船の間で情報をやり取りするときに暗号化を使わないのには理由がありますが、その1つが放射線です。暗号化キーの使用するストレージ領域が放射線によってダメージを受けると、通信は中断されます。

ISSの乗組員がインターネット接続に使う通信衛星の場合、問題はそこまで深刻ではありません。このような衛星は、程度の差はありますが保護されています。しかし、地球の軌道上にいるそれ以外の宇宙船の場合、大半はそうではありません。

暗号化できないというのは深刻な問題です。人工衛星は、地球上にあるコンピューターと同様、攻撃の標的になる可能性があるためです。ESAは先日、この状況を打開するための実験を開始しました(英語記事)。彼らは、人工衛星との間で暗号化された堅牢な通信を合理的な価格で維持するために、以下の2つの方法をテスト中です。

  1. ハードウェアに予備のセカンダリキーを装備する。プライマリキーが不正利用された場合、セカンダリキーに基づいて新しいキーを生成します。ただし、作成できるキーの数には限りがあります。
  2. まったく同じマイクロプロセッサコアを多数用意する。1つのコアで不具合が発生した場合、別のコアがいつでも代用できます。不具合を起こしたコアはその間に構成をリロードし、自己修復します。

テスト用のデバイスは2019年4月にISSへ搬送され、少なくとも1年間は稼動を続ける見込みです。デバイスは標準のRaspberry Pi Zeroをベースとしており、比較的低価格に抑えられています。

しかし、衛星との通信が安全なものとなるのは、近い将来にとはいかないでしょう。すでに宇宙に打ち上げられているシステムをアップグレードするのは、容易なことではありません。

火星のインターネット

人工衛星の保護の強化と帯域幅の拡張に熱心に取り組む人々がいる一方で、惑星間インターネットの構築を考えている研究者もいます。解決すべき問題は、ISSの乗組員が直面している問題と多くの点で似ていますが、規模がまったく違います。

たとえば、地球からの信号が火星に到達する時間は、地球に対する火星の位置によって、3分から22分(英語記事)と大きな開きがあります。ISSと地球の間で生じる0.5秒の遅延とは比べものになりません。そのうえ、火星と地球の間の直接通信は2年に一度、2週間にわたって遮断されます(英語サイト)。両惑星の間に太陽が入って信号を遮るためです。

このほか、宇宙のインターネットには、ほかにはない特徴がいくつかあります。たとえば、ネットワークのノードはすべて、常に動いています。この条件下では地球のインターネット技術は役に立たないため、研究者たちは地球、月、火星その他の惑星の間での通信を可能にする代替手段を開発しています(英語サイト)。こうした手段を支えるのは、以下のようなものです。

  1. 長時間にわたる遅延、かなり高い誤り率、頻繁にノードへアクセスできなくなる状態に対処できるようなデータ転送プロトコル。例としては、NASAの遅延耐性ネットワーク(Delay/Disruption Tolerant Networking:DTN)が挙げられます(英語サイト)。データは、次のノードに転送できるようになるまで中間ノード(人工衛星など)に保存されます。
  2. 現在の無線を使った衛星通信に代わる、光学的(レーザーなど)データ転送技術(英語サイト)。利用可能な帯域幅が従来の数倍となります。また、光送受信機の方が小型で必要な電力も少ないため、通信衛星の重要な資源である電力の消費を抑えることができます。
  3. 地球と火星(またはその他惑星)の間に太陽が位置している場合でも、太陽を迂回して信号を送信できるような人工衛星の配置(英語記事)。

未来は思いのほか近い

このように、火星や月に住む人とSNSを通じてやりとりすることやビデオ会議をすることは、思ったほど空想的ではありません。もちろん、人類が宇宙深くへとインターネットを広げるまでには長い道のりが待っていますが、初めの一歩はすでに踏み出されています。

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