カリフォルニア州マウンテンビューを拠点とする検索最大手Googleは先々週、サンフランシスコで、開発者を中心としたGoogle I/O 2013カンファレンスを開催しました。この Google I/Oで目玉の1つだったのがGoogle Glassです。使用者が目にするものすべてを認識する頭部装着型のコンピューターについて、私たちは、Googleがこのプライバシーへの広範囲にわたる大きな影響に取り組むだろうと高い期待を寄せていました。しかし、同社主催のセッション「Javaのオートスクロール」(それが何を意味するにせよ)から屋内地図の作製まで、コンベンションセンターではその重要な問題が口に出されることはありませんでした。Google I/Oのセッションに関するページでプライバシーに触れているのは1か所、Googleのプライバシーポリシーへのリンクだけです。
2012年のGoogle I/Oでは、セキュリティとプライバシーは、「Androidアプリにおけるセキュリティとプライバシー」セッションで1時間にもわたって取り上げられました。当時はわずかな時間かと思われましたが、今になってみれば、相当に寛大な対応だったようです。今年は、プライバシーについて少しでも言及しているかどうか、すべてのプレゼンテーションを掘り返して確認することになったほどですから。
幸いにも、このイベントでは、プライバシーについての言及が2度ありました。まずはGoogle Glassの炉辺談話で、もう一方はGoogle幹部によるこぼれ話です。
驚くことではないでしょうが、プライバシーについての最も有益な議論は、Google Glassセッションの聴衆のひとりから促されたものでした。私たちの友人であるThe Vergeによれば、聴衆のひとりがGoogle Glassの製品ディレクターを務めるSteve Lee氏にこの熱狂的な期待を受けた製品のプライバシーに対する影響について質問したとき、Lee氏はその懸念を軽く扱い、誰かがGoogle Glassを使用して撮影していれば簡単に分かるし、ユーザーのプライバシーは製品設計チームがGoogle Glassを開発するにあたって最も考慮した点だと淡々と主張したといいます。
基準からのひどい逸脱を受けて、米連邦議会は国民の感情を反映した行動を取ったようです。同議会は、Googleの共同創業者であり最高経営責任者(CEO)のLarry Page氏に質問状を送付し、新製品がユーザー、そしてユーザー以外のプライバシーに及ぼす影響についての懸念を示すとともに、いくつかの非常に厳しい質問に回答するよう要求しました。Page氏は、7月14日までにこれらの質問に回答する必要があります。この回答によって、まだ発売されていないメガネ型コンピューターがプライバシーに与える本当の影響について、明確な見通しを得られるでしょう。
年次のカンファレンスでプライバシーについての講演を開催しなかったというだけで、Googleがユーザーのプライバシーを軽視していると判断するのは、少し公正を欠いているかもしれません。このカンファレンスは、より良いアプリケーションやWebサービスを作成するために、Googleのリソースやツール、製品を最適化する方法を開発者に教えるためのものです。また、Googleを弁護すれば、電子フロンティア財団(EFF)のレポート「Who Has Your Back?」(誰があなたを守っているのか)の2013年版で、同社は高い評価を得ています。しかし、Page氏の発言によって、プライバシー問題でGoogleを 批判するのが非常に容易になりました。このことは大きな意味合いを持ちます。プライバシーの強硬論者は何年もの間、Googleのユーザーデータの扱いを問責しているからです。共同創始者兼CEOのPage氏はI/Oの舞台に上がり、自分が神経の問題で左声帯、後に右声帯がまひしたことを自身のGoogle+アカウントのブログに投稿しているのだから、誰もが医療記録のプライバシーについてそれほど神経質にならないようにする必要があると示唆したようです。
医療におけるプライバシーについてのPage氏の考えが個人データのプライバシーについての考えにどれほど反映されているのか、確実に知ることはできませんが、プライバシーに関する議論において、病歴の開示性を支持する重要人物の意見を聞くの66は非常に興味深いものです。Page氏の名誉のために言えば、同氏は、こうした開示性があることで成し遂げられる技術的、医学的な進歩の可能性について話そうとしていたようです。
もちろん、Page氏がそこまで進み出るには勇気がいるでしょう。しかし、億万長者が自分の話し方に影響を及ぼす致命的でない疾患について公の場で話すことと、通常は不名誉だと考えられる疾患や伝染性疾患、または命にかかわる疾患の詳細が記載された医療記録を一般に公開することは、まったくの別問題です。
1991年、マジック・ジョンソン氏がHIVの感染を理由に引退を表明したのは、まさに世界を揺るがせる出来事でした。今にして思えば、ジョンソン氏の発表は間違いなく良いことでした。しかしその当時、ジョンソン氏はそれまでバスケットボールの試合に登場してきた選手の中で、おそらく最高のプレーヤーでした。ジョンソン氏の発表に対する反応は、信じられないほど好意的なものから途方もなく否定的なものまで多岐にわたりました。ただ、現実問題として、ジョンソン氏は二度と働く必要はありませんでした。私たちの誰もがこういった種類の雇用保障があるわけではありません。心的外傷後ストレスや不安障害、その他のさまざまな病気などは、雇われる会社や入学事務局の責任者に、面接の機会を得てもいないような段階で知られたいというようなことではないでしょう。
GoogleがGoogle Glass(とついでに言えばAndroid)に対して善意にあふれた対応をする、あるいはLarry Page氏がプライバシーや病歴についてもっとオープンになるよう期待することに他意はない、というのは十分にあり得ることです。しかし同時に、Googleの新しいプライバシー戦略は、誰も気に掛けなくなるまで個人のプライバシーをゆがめ、侵害し、軽視するものである可能性もあります。それは、データの上に帝国を築こうとする組織にふさわしいポリシーです。
プライバシーについて語ってきましたが、皆さんはどうお考えでしょうか。