対特許トロール戦、始まりの終わり

2018年10月17日

めったにないことだが、今年の8月と9月の大半は「在宅勤務」を強いられた。世界各地への移動、通勤、仕事、取材、講演、その他諸々の仕事の雑事とは無縁の生活に、かなり時間を持て余してしまった。そこで、読んだ。相当読んだ。いつものように悪いニュースは盛りだくさんだったが、時には大変良いニュースもあった。特に、特許トロールとの戦いの最前線からは良い素晴らしいニュースが飛び込んできた。US5490216の特許侵害にあたるとしてUnilocが当社を相手取って起こした訴訟を、テキサス州連邦地方裁判所が退けたのだ。これは悪名高き特許で、2000年台初頭からIT企業を震撼させ、何年にもわたって数々の特許弁護士を立たせ、160社(!)以上の企業に情け容赦なく散財させてきた。かのMicrosoftやGoogleもしかりだ。

だが、素晴らしきニュースはこれで終わりではないのだ、諸君!…

IT業界一丸の取り組みにより、地獄のIT特許の無効化は確定した。だが、祝杯がふさわしいのは今回の無効化にとどまらない。この無効化が米国特許制度の本格的な(遅ればせながらではあるが)変化の兆しである事実もまた、シャンパンをあおるに値する。確かに、当面は「ゆっくり着実に」といったところだが、ゆっくりでも何も変わらないよりはましだ。その変化が世界的に重要な意味を持つなら、なおさらだ。IT業界は、ついに、テクノロジーの発展を搾取する妨げるだけの特許寄生虫どもを駆除できるようになった。

ボールはただ転がりはじめたのではない。斜面を猛スピードで下っている。実用化されることがなく、類似するテクノロジーの開発者から「搾り取る」ための手段でしかないこともある、抽象的なことや時にはあからさまに分かりきったことを書き連ねたいんちき特許(下品な言葉をお許しあれ)の所有者による迫害から守られ、開発者は自由になりつつある。

要するに、特許’216をめぐる話はスリラー小説のようなものだ。そこで、スリルを求める皆さんのために今一度語ろうと考えた次第だ。さあ、コーヒーでも淹れて(ポップコーンがあればなお良し)リラックスしていただきたい。特許に寄生する者にとっては平常心で読めないストーリーだ…

Unilocは1992年にオーストラリアに設立された。当時は、ITセキュリティ用ソリューションの開発という、どこから見ても有益で創造的な活動をしていた。同年に、ソフトウェアを著作権侵害から保護する同社のテクノロジーの1つが米国特許5,490,216で保護されるようになった。

ところが数年後、同社のビジネスは、あらぬ方向に急転換した。2003年には子会社のネットワークを作り上げ、その活動は…「ライセンスに関連すること」としておこう。そしてほどなく、(最大級の)大物に真っ向勝負を仕掛けることになる。特許’216を侵害したとしてMicrosoftを訴えたのだ!

話を進める前に、この特許について少し説明しておこう…

この特許は、ソフトウェアのコピーが別のデバイスで使用されないようにするソフトウェアのアクティベーション方法に関するものだ。つまり、1つのライセンスが何万台ものコンピューターで使用されるのを阻止する。

このアクティベーションプロセスでは、時刻、ハードドライブのシリアル番号、ユーザー名とアドレス、会社名、支払い情報などの情報に基づいてユーザー側に一意のIDが作成される。同様のアルゴリズムでサーバー側にも一意のIDが作成され、比較のためにユーザーへと送られる。2つの識別子が一致すれば、ソフトウェアはアクティベートされる。結局のところ、被告が侵害しているとして告訴されたのは、すべてこの「特許取得済みのプロセス」だ。実際、さまざまなデータのハッシュの比較は、多くの企業であらゆるチェックに使用されている。

しかし、落とし穴は細部に潜んでいた。15年もの間、被告らが入念に見直すことのなかったと覚しき細部だ。もし見直していたなら、この特許搾取をとっくに終わらせていたはずだ。

さて、Unilocは2003年9月、Microsoftに対して訴訟を起こすことになる。この訴訟は、2009年に裁判所がUnilocへの3億8800万ドルの損害賠償を認めるまで6年間にわたり続いた。両サイドからの一連の上告を経て、この訴訟は米国連邦巡回控訴裁判所まで進んだ。しかし、そこでの聴聞後、MicrosoftとUnilocは示談した。和解額は不明だが、相当な金額だったに違いない。

この特許劇の重要な節目となったのは、2009年に下された判決だった。Unilocがそこに大金の匂いを嗅ぎつけたのは明らかだ。なぜなら、これ以降Unilocは次々とIT企業を訴えはじめたからだ。また、これに味を占めたUnilocは、新たな特許を買収し、特許トロールの筆頭として名を馳せることになった。なぜ何年にもわたって研究開発に莫大な投資を注ぎ込んだのか?ぼろ儲けの源泉がそこにあったからだ!そして、プログラマーは腕利きの特許弁護士に取って代わられた。有益な製品やサービスの開発に費やされたかもしれない資金を、IT業界から貪るだけ(特許トロールのまさに典型だ)の特許弁護士に。

Unilocにつけ込まれた多くのIT企業の反応は、この特許トロールの筋書きどおりだった。Microsoftの手痛い敗北が抗しがたい前例となり、多くの被告がトロールに餌を与えること示談を選んだ。「Microsoftが勝てなかったのなら、我々にできるはずがない」と。戦いを挑んだ被告はというと、最終的に敗訴した。そして2013年10月18日、とうとう当社にもUnilocからの特許侵害訴訟が回ってきた。

さて、私のブログをお読みの皆さん、特許トロールに対する当社の姿勢に関する私の発言をご存知の皆さんは、当社のモットー「最後の弾がなくなるまでトロールと戦う」を思い出してくださるだろう。そのとおり、トロールに屈するなど当社にとって言語道断であり、当社のビジネス理念の激しく対極にある。当社に降りかかる特許侵害訴訟は、ひとつひとつ、勝利を収めるまで冷静に反撃するまでだ(最近になって気付いたのだが、トロールが当社を侵害請求に巻き込もうなどと考える前に先制攻撃を仕掛け、その寄生体質の増長を阻む方が効果的だ)。

今回の訴訟も例にもれず、粛々とやるべきことに取り掛かった…

我々は、この特許のあらゆる文書を読み込み、驚くなかれ、当社テクノロジーとこの特許テクノロジーとの間に重要な相違を発見した。そこで、当社は取り得る動きを慎重に計算し、それに従って論証を準備し、必要な場合に必要とあらば当社の立ち位置を変えつつ、裁判の全段階を辛抱強く進んでいった。並行して、2011年に成立したリーヒ・スミス米国発明法を後押しに(これによる特許制度の法改正は絶妙のタイミングだった)、米国特許商標局へ特許の無効化を求める法的手続きに着手した。

その後(2012年9月)、同米国発明法の下、特許審判部(Patent Trial and Appeal Board:PTAB)で特許の正当性に異議を唱えるための重要な手続きが2つ、新たに開始された。(i)特許異議申立人(特許の正当性を疑問視する当事者)が立証できる当該特許の無効性を示す「合理的な可能性」に基づく「当事者系レビュー」(Inter Parties Review:IPR)と、(ii)特許異議申立人が「無効である可能性の方が高い」(こういった米国法独特の言い回しには時々困惑させられる(笑))ことを立証できた場合に、最近の(過去9か月間に発行された)特許を無効とする登録後レビュー(Post Grant Review:PGR)だ。

標準的な(裁判による)特許異議申立手続きと比べれば、新しい手続きは格段に短期間で(標準的手続きの2年半に対して約1年)、コストもかからない(150~200万ドルに対して25万ドル)。そして何より、シンプルでプロフェッショナルだ。IPRおよびPGRの決定は、陪審員ではなくプロの特許専門家に委ねられ、特許方式が徹底的に調べられる(先行技術は特許と印刷出版物に限られるのだが)。また、必要な論証レベルはこれまでより低い(「可能性」)。

この新しい規制メカニズムによって特許トロールが永久に葬られると考えてもいいだろう。ただ、さほどスピーディではないが…

どちらの手続きも、それほど単純ではないことが判明した。新しいが故に実績のないことも手伝って、当初はその適用が思うように進まず、返ってくる結果も不明瞭だった。それでも、多くの企業が特許の無効化を目指してそのチャンスに飛びついた。これが功を奏したようだ。特許トロールが四方八方から多種多様な論証で攻撃を受けたことで、無効の成立が大幅に増加した。成功と言えば…2016年まで話は進むが、悪名高き特許’216はようやく無効のステータスになった!

申立人らはPTABに対し、この特許の優先権を、曖昧に書かれたオーストラリアでの特許申請ではなく、米国への特許申請日(1993年9月21日)のもので判断すべきだと証明した(そう、米国で特許を取得するのに、他国で提出した特許または申請の優先権を利用できるのだ)。なぜか?それは、オーストラリアと米国での申請内容が同一ではなかったからだ。オーストラリアでの申請では、それぞれの主要素が明らかにされていなかった(ただし、Microsoftをまんまと訴えた特許侵害を別にすればだが!)。ソフトウェアを著作権侵害から保護するための一意のIDの生成方法に関する先の特許が提出されたのは、それより後だ。これが、特許’216の妥当性にとどめを刺した。

これで終わりかって?まだまだ!

特許弁護士たちは、Unilocの訴えに対する裁定と最高裁判所の判決が出るまで、さらに2年待たされた。トロールは特許無効化のための新たな手続きの合憲性に異論を唱えはじめたのだ!だが、終わりよければすべてよし…

この訴えは却下され、最高裁判所はPTABの手続きの合憲性を支持した。そう、ついに。特許の新たな時代の幕が次第に開けつつあると、私は確信している。本当の発明家、開発者、テクノロジー企業の知的財産が保護される方向へと向かう時代は、彼らのイノベーションによる真の進歩をもたらす。抽象的で分かりきったアイデアまたはアルゴリズムを排除し、新しい公正なルールによってテクノロジーを保護する時代だ(Alice社の判例に感謝)。発明の「特許性」には、抽象的なアイデアの一般的表現より多くのものが求められる。

特許業界におけるこれらの新たな発展と取り組みによって、ずいぶんと先延ばしされてきた待望の確実性が生み出される。法廷を舞台に「特許トロール」の名で演じられてきた茶番劇は、ようやく終焉を迎えつつある。本当の終焉だろうか?それは、いずれ分かるだろう…

というわけで、特許世界の現状をまさに言い当てたウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)の名言を引用して締めるとしよう。「これは終わりではない。終わりの始まりですらない。だが、もしかすると始まりの終わりかもしれない。」