本ブログでは、広く知られるようになってきた「豚の屠殺」詐欺について説明します。この手口は収益性が高いため、詐欺師の間で急速に普及しており、被害者の数も増え続けています。
「豚の屠殺」詐欺とは
豚の屠殺は詐欺の一種であり、多くの場合投資詐欺(多くの場合は暗号通貨)とロマンス詐欺の両方に関連します。
豚が屠殺されるまで長期間飼育されるのと同じように、通常詐欺師は、数週間から数か月にわたってじっくりを関係を築きます。被害者の好きなことやちょっとしたミスに付け込みながら信用させます。この点において、豚の屠殺詐欺は他の詐欺スキームと大きく異なります。他のタイプの詐欺師はせっかちな傾向があり、手っ取り早く利益を得ようとします。
起:突然のメッセージと気が合う他人
すべては、メッセージアプリやSNS、または ランダムなSMSメッセージから始まります。詐欺師は、送り先を間違えてメッセージを送信したふりをするか、遠く離れた共通の知人がいるなどと嘘を言って標的に近づきます。このような情報は、被害者のSNSから簡単に知ることができます。被害者が詐欺師に「番号を間違えたのでは」などと返答すると、詐欺師は丁寧に謝罪し、他愛もない会話を始めようとします。メッセージのやり取りを繰り返すごとに、被害者と詐欺師の関係は次第に打ち解けていきます。
ここで注意すべきは、詐欺師はしばし被害者の地位や個人の特徴に基づいて意図的に被害者を選択しているという点です。つまり、そこそこ裕福ではあるが、フレンドリーで見知らぬ人と会話することに抵抗のない、孤独で、弱い立場にある人を探しているのです。この段階で詐欺師が目標とするのは、被害者を友好的な関係を、理想的にはロマンチックな関係を築くことです。
このようにして、詐欺師は被害者の信用を得て、警戒心を取り除いていきます。前述したように、この種の詐欺師は相手を急かすようなことはせず、コミュニケーションに多くの時間を費やします。これはネット上の詐欺師としては異例のことです。そのため、被害者が最初に抱いていた疑いも、しばらくすると消えていく傾向があります。
承:儲かる投資話をもちかける
遅かれ早かれ、詐欺師は会話を金銭的な話題に誘導する方法を見つけます。ここで具体的にとられるアプローチはさまざまですが、基本的な考え方として、詐欺師は儲かる投資話を共有し、被害者も投資を検討するよう仕向けます。
株式、債券、先物、オプションなど、昔からある投資話の可能性もありますが、最近では、いくつかの「有望な」暗号通貨への投資と関連付けられることが多くなりました。暗号通貨は全体的に複雑で不透明なので、資金移動の容易さと相まって、このような詐欺にはぴったりです。
この段階で、被害者は何かがおかしいと疑い始めるかもしれません。しかし詐欺師にはそういった警戒心を取り除く手段があります。自分やその関係者に個人的にお金を送金する必要はないと説明し、大切な「豚」を安心させます。被害者が行う必要があるのは、取引する(偽の)プラットフォームに口座を作成し、そこにいくらかのお金を入金して、残高がどのように「増加」するかを確認することだけなのです。
転:驚異的な利益と新たな入金
豚の屠殺詐欺スキームの重要なポイントは、詐欺師があらゆる段階で慎重に介入し、被害者が事態をコントロールできているという錯覚から覚めないようにする点です。被害者は取引プラットフォーム上に自らアカウントを作成し、そこで何を取引するかを自ら選択できます。詐欺師はプロセス全体をより迅速かつ簡単にして、言うまでもなくできるだけ収益を高めるために、有益なアドバイスを提供するだけです。
そんな中詐欺師からの取引のヒントは「有益」であることが判明します。被害者はすぐに取引プラットフォームで初めての利益を確定し、興奮して、さらに大きな利益を得るためにどんどん入金し始めます。
結(クライマックス):詐欺師は金を持って消える
この結末は… もちろん遅かれ早かれ、詐欺師は突然コミュニケーションを断ちます。通常、そのタイミングは、アカウントの残高が十分に蓄積された頃です。あるいは、被害者がプラットフォームからお金を引き出そうとする瞬間まで待ってから姿を消すこともあります。
そのとき、被害者は真実を知ることになります。取引していたプラットフォームは偽物であり、信じられないほどの利益はすべて雲散霧消してしまったのです。本物のお金は長い間未知の口座に送られていました。この段階で、詐欺師は被害者との通信をすべて遮断し、詐欺に使った口座を閉鎖して、行方をくらまているため、被害者はどうすることもできません。
被害者は、プラットフォームで投資したすべての資産を失います。通常詐欺師は、数万ドルから数十万ドル、場合によっては数百万ドルを持ち去ることに成功しています。
東南アジアの詐欺農場
前述の説明からすでにお気づきかと思いますが、この手口には一般的な詐欺とは大きな違いがいくつかあります。まず、犯罪者は十分な準備をして標的に近づきます。彼らは標的を欺くための効果的なツールを持っています。そして第二に、彼らは急がず、長い時間をかけて一人の標的に働きかける準備ができており、徐々に標的を貶めていきます。第三に、被害額は相当な金額になります。つまり、詐欺師がかけた時間と労力が最終的には報われるということです。
この詐欺が成功する理由は、ほとんどの場合、豚の屠殺詐欺の背後にいるのが個人の詐欺師ではなく、大規模な犯罪グループであることです。これらの組織は、詐欺のために大規模な「農場」を運営しており、ほとんどの場合、東南アジアの十分に発展していない国に拠点を置いています。このような農場はラオスやフィリピンにもありますが、ほとんどの農場はカンボジアや、内戦が続いているミャンマーにあります。
このように彼らの事業は実に巨大なもので、たとえば、KKパークと呼ばれる最大規模の詐欺農場に関する昨年の報告書によりますと、この農場では2,000人以上が働いているとされています。Wikipediaにもこれに関するページが作成されています。こういった農場はさらに拡大し続け、次々に新しい農場も開設されています。
このような詐欺農場は、より正確には「強制労働収容所」と呼ぶべきであり、これがおそらくこの手口の最も悲惨な点です。というのは、豚の屠殺詐欺の下っ端として末端的な役割を担う人、つまり被害者と直接コミュニケーションをとる人たちの多くは、自らの意志に反して詐欺に関与しているからです。
詐欺グループは、高度なスキルを持ち、十分な教育を受け、ネット上でのコミュニケーション能力に長けた多言語を話す人材を必要とします。そのため通常は、他国でリクルート活動を行います。労働者は、コールセンターのオペレーター、SMMスペシャリスト、翻訳者、ITスペシャリストの募集だと思い込み応募し、高収入の約束に惹かれて出稼ぎにやってきます。
通常、詐欺農場の新たな労働者はまず隣国のタイに行き、そこからミャンマーやカンボジアに連れて行かれます。そこで彼らは人口密集地から遠く離れたキャンプに移送され、身分証明などの重要な書類を没収されます。そして、実質的に奴隷になります。食べる物のためだけに1日12〜16時間働かされ、時には暴力を受け、他の詐欺師に労働者として売り飛ばされることもあります。
この問題は極めて深刻です。UCHCR(国連人権高等弁務官事務所)が昨年発表した報告書には、信頼できる情報源からの引用として、ミャンマーでは少なくとも12万人が詐欺農場で雇用されており、カンボジアでは約10万人が雇用されているとしています。
豚の屠殺詐欺から身を守る方法
豚の屠殺詐欺は世界的な問題であり、詐欺師はさまざまな国の国民を標的としているため、被害者の損失総額を計算することは極めて困難です。さらに、自分が被害者になったことを報告しない人もいます。しかし、大まかに見積もると、豚の屠殺詐欺の産業規模は数十億ドルに達すると考えられます。これは非常に儲かるビジネスであるため、問題が自然に解決することを期待しても無駄です。
私たちがアドバイスできることは次のとおりです。
- たとえ相手と長い間コミュニケーションをとっており、詐欺師ではないようであっても、オンラインで偶然に知り合った人には注意してください。
- たとえ高い収益率であるように見えても、不透明な投資スキームに大金をつぎ込むのはやめましょう。
- 特に、暗号通貨に関する投資に不用意に投資してはいけません。暗号通貨取引の特殊性により、残念ながら非常にたくさんの詐欺師が活動しています。さらに、すべてのブロックチェーン取引は元に戻すことができず、保険が適用されないことにも注意することが重要です。
- 投資の黄金律を忘れないでください。潜在的な利益が高ければ高いほど、リスクも高くなります。危険なスキームには、失うことができない資金を決して投資しないでください。
- この詐欺スキームについて、家族や親しい人に知らせましょう。これにより、経済的損失だけでなく、このような深刻な詐欺によって生じる避けられない心理的トラウマからも家族を守ることができるかもしれません。