3D印刷が動物を救う

2016年2月12日

3D印刷は画期的な技術です。ほとんどのものをすばやく正確に作ることができます。その上、プラスチック、金属、ロウなど、さまざまな素材を使って印刷可能です。メーカーはもはや、工作機械の調整やプロトタイプの作成を手作業で行う必要はありません。3Dプリンターを利用すれば、子どものためのおもちゃ(英語記事)、宇宙食用ピザ、ハッカー用の侵入道具を忍ばせたハイヒール(英語記事)、人間や動物のための医療装具まで、大抵のものを適切なサイズで作成できます。

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3D印刷業界にとって野生動物の保護は、慈善活動というだけでなく、3D印刷技術でどれだけのことができるのかを世に示す手段でもあります。技術者や医師は3Dプリンターを使って動物のための義肢や添え木、フレームといった医療装具を作ります。患者が快復して装具が不要になれば、取り外して再利用できます。

新しい脚を与えられた犬

犬のダービーは、前脚が未発達な状態で生まれ、這うことしかできませんでした。最初の飼い主には捨てられました。しかし幸運なことに、ダービーは捨てられて間もなく、3D Systemsの代表を務めるタラ・アンダーソン(Tara Anderson)氏に出会いました。アンダーソン氏に引き取られたダービーは、3D印刷技術の「シンボル」となりました。3D Systemsの熟練スタッフがダービーに合わせたカスタムメイドの義足を設計し、3D印刷で作成したのです。ダービーは喜んで義足を受け入れました。ダービーはすぐに走り方を覚え、今では新しい飼い主と毎日3マイルの散歩に出かけ、駆け回っています。

ダービーが現在使っている義足は、最初のバージョンではありません。3D Systemsは、いくつかのバージョンを作成しました。初代モデルは短すぎたため、ダービーは背中をまっすぐに伸ばしておくことができませんでした。この姿勢では背骨に負担がかかり、背骨を傷めるおそれがあります。一方で、義足を大きくしても問題は解決しないことがわかりました。動きが複雑になるだけだったのです。3D Systemsのスタッフは、設計を全面的に変更し、新しい素材を選んで、犬の膝の機能を再現した新しいモデルを作りました。出来上がった義足は、犬の脚とは似ても似つかないものでした。それでも、ダービーは毎日その義足を嬉しそうに使っています。

チタンの顎を持つカメ

ウミガメの大部分は絶滅危惧種に指定されています。そのため、負傷したウミガメが発見されると必ず、できる限りの手当てが施されます。2014年に、成体のウミガメがボートのプロペラに衝突し、重傷を負いました。顎を損傷し、自分で食べることができなくなったのです。

研究所で育てるのも大変でした。稚魚を飲み込むことがほとんどできず、極端な栄養不足に陥っていました。そこで、パムッカレ大学のウミガメ研究救護センターの研究者がトルコの企業Btech Innovationと協力して、そのカメのためにカスタムメイドのチタン製の顎を3Dプリンターで作ることになりました。

金属3D印刷が、とりわけ将来有望な技術の1つであることは注目に値します。ほとんどの人は、3D印刷といえばプラスチック、主にABS樹脂と考えがちです。プラスチック素材を使って熱溶解積層法で作ったものは、非常に安価ですが、壊れやすい性質があります。加えて、熱溶解積層法では印刷の精度がそれほど高くないため、たとえばカメの顎のような複雑なものを作るのには適していません。

金属3D印刷では、複雑な構造が多くても頑丈で、精度の高いものを作ることができます。顎の素材をチタンにしたのは、こうした理由からです。実は、金属に印刷して一定の品質基準をクリアできる3Dプリンターが発明されるまでには、多くの人の長期にわたる懸命な努力がありました。最新の3Dプリンターでは、金属(銀、金、ブロンズ、銅など)の微粒子に有機接着剤と水を混ぜ合わせた金属粘土を使用します。接着剤と水が印刷の段階で燃焼して、金属の固形物ができあがるという仕組みです。

1匹で二役:ヤドカリの住み処がアートに

ヤドカリは、海に住む他の生き物がいなくなった後の殻を使って暮らし、体が大きくなって殻が窮屈になったり、敵の攻撃を受けて殻から追い出されたりすると別の殻に引っ越します。ヤドカリの個体数は、住まいとして利用できる殻の数によって大きく左右されます。必要な時に殻を見つけることができなければ、死んだも同然です。

日本のアーティスト、猪俣あき氏は、アートでもあり、ヤドカリの保護にもなる作品を作っています。ヤドカリが特に好む貝殻の形状と構造を研究し、内側は良質の貝殻を正確に再現しつつ、外側は透明な建築物(水車、教会、モニュメントなど)のような住み処を3D印刷で作りました。ヤドカリはこの作品を大いに気に入っているようです。

オオハシのくちばし

コスタリカで子供たちがオオハシの幼鳥と遊んでいたところ、オオハシの上くちばしが取れてしまいました。このような怪我を負うと、鳥は痛みに苦しみながらじわじわと死んでいくしかありません。くちばしがなければ食べることができず、飢え死にすることになるからです。また、くちばしには体温調節の機能もあります。さらに、オオハシの雌はくちばしの色でつがう相手を選ぶため、怪我をした哀れな鳥は生殖の機会も失うことになります。

有志が集まって募金を呼びかける活動を始めました(英語記事)。オオハシのための新しいくちばしを3D印刷で作るための資金を調達しようというのです。この活動は世間の同情を大いに集める結果となり、約5,000ドルの目標額を48時間も経たないうちに達成しました。

同じようなことがブラジルでもありました。ティエタという名前のオオハシが、リオデジャネイロの野生動物違法取引市場で保護されました。ティエタは、おそらく密輸人に虐待されたことが原因で、上くちばしが欠けていました。

ブラジルの3つの大学から研究者が集まり、共同で3か月かけてティエタのための特別な装具を設計して3D印刷しました。最大の課題は、軽量ながら耐久性に優れた装具を作ることでした。装具を付けてから、くちばしが復活したことをティエタが認識するまでに3日かかりましたが、今では介助なしで食べることができ、健常なオオハシと同じように生活できるようになりました。

カモの足

子ガモのバターカップは、卵からかえった時から左足が前後逆さまに付いていたため、ひどい痛みがあり、まともに歩いたり泳いだりすることができませんでした。しかしその後しばらくして、動物保護施設Feathered Angelsに迎えられると、状況が好転しました。

バターカップの左足を除去するよう獣医から勧められ、施設の創設者は3D印刷を専門とする会社NovaCopyに相談しました。

NovaCopyの技術者は、バターカップの仲間のカモ、ミニーの左足をスキャンし、バターカップのための義肢を作りました。しばらくすると、別のモデルも出来上がりました。ホリデー仕様のデザインや、泳ぐ時専用のモデルなどです。間もなくバターカップはFacebookの人気者になり、保護施設Feathered Angelsのシンボルとなりました。

ネコの脚

ネコのビンセントは、生まれつき後ろの脛骨がなく、歩くことができませんでした。ビンセントを引き取ったアイオワ州立大学のメアリー・サラ・バーグ(Mary Sarah Bergh)博士は、3D印刷を利用して、ビンセントが使える脚を作れないだろうかと考えました。

博士はしばらくの間、ビンセントをどうやって助けたものかわからずにいました。あるとき、Biomedtrixという企業から来ていた同僚に相談したところ、解決の糸口が見つかりました。2人は協力して、ビンセントのためにチタン製の義肢を3D印刷で作りました。義肢は通常、肢を継ぎ足す形で作りますが、ビンセントには後ろ足がまったくないため、チタン製の義肢を直接骨に埋め込んで、骨が金属の周りを成長していくようにしました。治療計画によると、義肢はビンセントの成長に合わせて変更し、前足と同じ高さになるまで調整を続けることになります。現在ビンセントは3歳で、歩けるようになっています。

このチタン製の義肢という珍しい実験的治療は、貴重な事例として同じ病気を持つ他の動物の治療にも活用されることでしょう。

肢体不自由犬のための車輪カート

チワワのタボルーの感動的な話は、数多くの犬の生活を変えました。タボルーは生まれつき前脚がありませんでしたが、飼い主はそのままにはしておきませんでした。胴体を支える車輪付きのカートを作り、動き回れるようにしたのです。飼い主がこの話をネットに公開すると、すぐに口コミで広まり話題になりました。

3dynという会社の技術者も、タボルーの話に心を動かされました。そしてタボルーのために3D印刷で車輪付きカートを作って贈りました。タボルーはすぐに新しい器具に慣れ、今では他の犬と同じようにすばしこく楽しそうに走れるようになっています。

タボルーは、3D印刷で作った器具を付けてもらった最初で最後の犬というわけではありません。怪我をした多くの犬が似たような器具を付けています。そのうちの1匹がチワワのダフォディルです。ダフォディルは哀れにも紙の箱に入れられ道に捨てられていました。飼い主はダフォディルに生まれつき前脚がなかったために捨てることにしたのでしょう。

通りかかった心優しい人がダフォディルを保護し、SFSPCAという慈善団体に相談しました。その団体がダフォディルのために特別な車輪付きカートを作りました。下の動画で、ダフォディルが新しい脚となるカートを初めて試す様子を見ることができます。

3D印刷は年を追うごとに、手頃な価格になっています。3Dプリンターが一家に1台という時代が間近に迫っているのかどうか定かではありませんが、そう遠くない将来、ペット用のおもちゃや義肢を3D印刷で作るにはどうすれば良いか誰でもわかるようになることでしょう。インターネットで3Dモデルをダウンロードして、最寄りの3D印刷ショップに行けばOK、というように。その頃までにきっと印刷技術も進歩しているでしょうし、他にもどんなものが身近なところで印刷できるようになるか想像してみるのも楽しいですね。