産業の未来は信頼できる産業データにあり

当社が支援するベンチャーのAPROTECHが、IIoTの分野での、KasperskyOSの変わった使い方を発見しました。

今回の記事は、いつもと違って情報セキュリティの話ではありません。ロシアの管財圧延プラントであるChelyabinsk Pipe Rolling Plant(ChelPipe)での、産業データ解析の話です。突然何の話か、と思われたかもしれませんが、これもまたKasperskyのイノベーションが活用されている分野の1つなのです。名付けるなら「信頼できる産業データ」でしょうか。

生の産業データ

大規模企業では、旋盤、タービン、炉など膨大な数の機械類が扱われており、それぞれに工程を監視するセンサーが付いています。こうした産業用の機器が生成するデータはどのくらいだと思いますか?

当社エキスパートの調べによると、平均的な企業では、自動プロセス制御システム一つ当たり1500の信号発生源があります。巨大企業(たとえば石油の幹線パイプライン網を全国規模で管理している企業)ともなれば、その数は100万を超えます。さらに、平均的なセンサーやコントローラーの一つ一つは、毎秒10,000から15,000の測定信号を生成しています。

このうち実際に利用されているデータがどれほどかというと、機器の重要性にもよりますが、平均すると、収集された情報のうち監視制御システム(SCADA)に送られるのは10~15%です。システムの運用性を評価するにはこれで十分ですし、SCADAに負荷をかけすぎるのは望ましくありません。データ量から判断すると、信号1つ当たり約80バイトを占めます。

したがって、平均的な自動プロセス制御システムの場合、1分ごとに約100GBの生データが生成されている計算ですが、日々利用されているのはその10分の1にすぎません。残りの90%は無駄になっています…このビッグデータの時代に。

産業用センサーからのデータを有効に活用するには

一般的に、産業用センサーからSCADAにデータを送る目的は、プロセス制御や事故防止などです。ここ数十年、こういったデータはERPシステムをはじめとするその他データ解析メカニズムでも注目されています。これらのメカニズムは、センサーからデータを収集するのではなく、SCADAシステムから取得するのが一般的です。

要するに、ERPは生成されたデータの10%しか受け取っていないということになります。全データを入手できたなら、こうしたシステムの有効性はどれほど向上することでしょうか。

KasperskyとChelPipeの連携

Kasperskyは、IoTや組み込みシステム、その他特殊な用途のアプリケーション向けのセキュアOSであるKasperskyOSを開発しました。当社はまた、このOSをベースとするIIoTゲートウェイの開発に取り組むベンチャー、Adaptive Production Technology(APROTECH)の活動を支援しています。APROTECHと当社が共同開発するIIoTゲートウェイは、現在パイロット段階にあるもの1つだけではありません。現在、新たに2つのゲートウェイに取り組んでいるところです(この話は別の機会に)。最初のゲートウェイの実装を進めているとき、このシステムの活用について、本来の用途からは外れるかもしれませんが大きな発見がありました。

2019年、ゲートウェイの実用シナリオを検証しているとき、APROTECHは見込み顧客に対してゲートウェイの試験的導入を打診しました。そのうちの一社がChelPipeです。最初に話を持ちかけた先は当然ながら情報セキュリティ部門でしたが、いつの間にかエンジニアにも話が通っていました。後に分かったことですが、エンジニアもIIoTゲートウェイに対して特別な関心を持っていたのでした。

そもそも、APROTECHと当社がこのゲートウェイを開発したのは、IIoTセンサーから詳細な情報を収集し、信頼できるチャネルを介して後続の処理に送ることが主な目的でした。ゲートウェイのアーキテクチャがあれば、生データがすり替えられるリスクや、「後続の処理」を実施するシステムに誰かが手を加えて産業機器の制御を握るリスクを最小限に抑えることができます。

ChelPipeのエンジニアは、こうしたデータをリアルタイムで取得するというアイデアを熱烈に支持しました。それが実現すれば、たとえばプロセス指標に変化を生じさせる要因の特定など、重要な問題をいくつも解決できます。この情報をもって、エンジニアは運用上の判断をその場で下すことが可能となるのです。

エンジニアたちは、試験的導入に向けて、制御対象の重要なパラメータをいくつか選定しました。一方APROTECH側では、この機器からテレメトリーデータを収集してSiemens MindSphereプラットフォームへ送信するように、KasperskyOSベースのゲートウェイを設定しました。ChelPipeとしては、ゲートウェイそのものというより「信頼できる」産業データの処理結果に関心があったため、ChelPipeのエンジニアはSiemensおよびSinimexのスペシャリストと共に、このデータを収集、蓄積、視覚化するエンドツーエンドのデジタルサービスを作成しました。

アイデアのさらなる発展

エンジニアリング企業向けの生データ処理は、始まりにすぎません。実装の過程で、こうしたデータを信頼できるチャネルを通じて送信・処理する能力は、ビジネスアナリストの目にも止まることとなりました。このデータを、たとえば機器1台または生産サイト1か所ごとの限界収益の算出に利用可能であるためです。これは、エンジニアではなく取締役の領分です。

大ざっぱな言い方になりますが、生の産業データをすべて収集可能になれば、エンジニアリングレベルだけでなくビジネスレベルにおいても、予測やモデルを組み立てるプロセスが近いうちに変わるかもしれません。APROTECHと当社が共同開発するIIoTゲートウェイは、現時点ではまだパイロット段階にあります。詳細については、APROTECHのWebサイト(英語)をご覧ください。

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