CES 2016レポート:願わくは万人向けのイノベーションを!

2016年1月22日

1月初め、ラスベガスでConsumer Electronics Show(CES)が開催された。この展示会を見れば、その年の家庭用電化製品、テクノロジー、ソフトウェアのトレンドがわかる。

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CES 2016で展示されていた新製品をすべて紹介するつもりはない。それはTheVergeやMashableやEngadgetの仕事だ。それよりも、人類がどの方向に向かっているのか、そして否応なく接続される未来がどのくらい安全なのかを自分の直感で判断するつもりでCESに出かけた。

今年のCESを見る限り、人類はそれほど進化していない。ブースの2つに1つは「イノベーション」という言葉を掲げていたが、この見本市で本当のイノベーションはほとんど見かけなかった。私にとって「イノベーション」とは、まったく前例がなく独自すぎるあまり「これは何?」という単純な質問にすら答えようがないもの、だ。真のイノベーションを発表するのであれば、よくよく考えて適切な言葉を選んで説明しなくてはならない。

これはまさに、私が皮膚の下にチップを埋め込んでもらった時に感じたことだ。あれは革新的な出来事だった。でも、正直に言って、「ドローン」「バーチャルリアリティ」「スマートカー」「Wi-Fi対応の冷蔵庫」といった言葉に目新しさはまったくない。これらの発明を低く見ているのではない、事実を伝えようとしているのだ。こうしたものには斬新さがない。もっとも、今年のCESでは本当に革新的なテクノロジーがなかったおかげで、市場の主なトレンドをまとめやすくはなった。

スマートカー

今シーズンの主要トレンドの1つであり、思うに今年のCESでも最大のトレンドだったのは、スマートカーだ。数年前、ソフトウェア満載の自動運転車は、言葉で説明しただけのコンセプトに過ぎなかった。ところが今年は、Ford、Volvo、Mercedesなどの主要自動車メーカーが、ほぼ実用レベルの自動車を展示していた。これら企業に共通していたのは、「新世代の自動車は、ほとんどのことを自動車自体が考える」という点だ。

膨大な数のセンサーが、道路状況や車内の様子、ボンネット内の状況を鮮明な画像として提供する。この情報が、走行ルートから非常事態まで、あらゆるものの予測を助けてくれる。有益なデータは、フロントガラス(プロジェクションディスプレイを利用)やダッシュボード、埋め込み型インフォテインメントシステムの画面に直接投影可能。また、ドライバーの気が散らないように、システムは音声操作が可能。このテクノロジーはすでに、FordのSync 3システムに導入されている。

競合も後に続く。Volvoは、自動運転車の実現というミッションを早急に達成すると約束したが、その目的は快適さを追求するためではなく、運転の安全性を高めるためだという。BMWは、間違いなくCESで自動車業界のリーダーシップを握っていた。丹念にハイテクが詰め込まれた同社の自動車は、まるで23世紀から来た車のようだった。車載機器については、一般的な機能もあれば、ドライバーがキーを忘れてスマートフォンでドアを開けるしかない状態を検知できる画期的な走行用コンピューターもあるという、信じられない素晴らしさ。しかし、このようなBMWの新型車は、本当に独自であるがゆえに、故障してしまいそうで、修理にも一苦労しそうなものが数多く搭載されている。

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このハイテクブームから受ける印象は、二面的だ。自動車メーカーのシステムは、路上での安全性を強化し、ドライバーが運転中に居眠りしても進路を外れないようにサポートすることを目的に設計されている。しかし、絶対に壊れないシステムなどないことは、誰でも知っている。ソフトウェアとコンピューターをベースにしたシステム(たとえば、安全性を高めるために設計されたシステム)は、壊れる可能性だけでなく、侵入される可能性もある。つまり、未来の自動車の安全レベルは、全体的に見れば高いかもしれないが、敵の目的が自動車のハッキングだとすると、目的が達成される可能性は大幅に高くなるだろう。単純な話、悪用可能なものが増えているわけなのだから。

こうした自動運転車のトレンドには、大いに議論の余地がある。自動運転車のコンセプトが最も生きるのは、人間の運転する車両が道路に1台もない場合くらいのものだ。そうなってからようやく法規が統一され、万人に遵守されるようになるだろう。人間が自分で運転するのを好むかぎり、事故は起きる。人間は生来、予測不可能で、過ちを犯しやすい存在なのだから。

それからもう1つ、あまり語られないが考えるべきことがある。米国だけでも相当な数のタクシードライバーがいて、世界中にはもっと大勢いる。ロボットカーが市場に登場する(これは2020年、主要自動車メーカーが大量生産を始めたときになるかと)と同時に、この人たちは職を失い始める。危険な社会的混乱が発生し、今はまだ知り得ぬ不快な事態が引き起こされる可能性がある。

バーチャルリアリティ

もう1つ、非常に人気のあったトレンドはバーチャルリアリティ(VR)。何かしらバーチャルリアリティに関連するモノを展示している企業は、いくつもあった。火星の上を歩かせてくれる企業もあれば(「火星の人」マーク・ワトニーの付き添いはなし、ガッカリ)、教育用VRシステムを展示している企業もあったが、大半はゲーム製品に注力していた。

個人的に見て大人気だったのは、Sony PlayStation VRのデモだ。ヘルメットをかぶり、2本のジョイスティックを握りしめて、仮想空間を走ったり銃を撃ったりしようと、長蛇の列ができていた。実に強烈な光景だった。たとえば、あるシーンで悪者が火の付いたたばこの吸い殻をプレイヤーに投げつけるのだが、みんな本当に身をよじって避けようとしていた。その場で嘔吐した女性も目にした。「人間の前庭器官がバーチャルリアリティを本物と認識する可能性がある」という注意書きは、冗談ではないのだ。

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サムスンもVRに重点を置き、客席に銀幕ならぬ個人用VRヘルメットを備えた仮想映画館を実演していた。観客は席に座って、何でも好きなことをすればいい。映画を見るもよし、世界中の展示会を尋ねる仮想ツアーに参加するもよし。

トレンドとしてのバーチャルリアリティには、大きな将来性が見られる。熟練ゲーマーとしてひとこと言わせていただくと、バーチャルリアリティがすっかり本物らしく見えるなら、喜んで現実の世界と取り替える人はごまんといるだろう。

欠点は、人々の孤立化が新たな段階へと進もうとしているところだ。企業は科学、教育、芸術における一大ブームとしてVRを語っているが、私はそうは思わない。ゴッホの作品について学んで深く考えたい人は、VR技術の手を借りなくてもすでにそうしている。それは形式の問題ではなく、意欲の問題だ。エンターテインメント業界について言えば、VRを使った新たな時代に向かっているのは間違いない。

ドローン

昨年、ドローンは一番のトレンドだった。何かにつけてドローンが展示スペースの中で浮かんでいるのに出くわしたものだ。今年、ドローンを目玉にしたブースはそれほど多くなかったが、それでも、いくつかのトレンドを見つけることができた。

1つ目のトレンドは、警察用ドローンの登場だ。まさに、今年、ターミネーターやロボコップが現実のものとなった、と全面的に認めることができる。警察用ドローンが私の視界に入った途端、私の心にED-209と彼の決めセリフ、「ご協力に感謝する」(Thank you for your cooperation!)がよみがえった。

ところで、イスラエルは軍需産業でロボットやドローンを以前から使っている。他の国の警察や軍隊で、いつドローンが使われるのかは、まだはっきりしないが、時間の問題であることは間違いない。このトレンドが進めば、警察犬の遺伝子でパワーアップされた軍事用ED-209が、まもなく登場するだろう。

ドローン業界の向かうもう1つの方向は、乗客を運ぶことのできるドローンだ。1社だけだが、中国のEhangがこのコンセプトを発表した。特に、先ほどお話した自動運転車の発展を考えると、魅力的なアイデアだ。

飛行中のドローンは、乗客による操作を一切想定していない。乗客はあらかじめ設定された場所を地図から選び、ボタンを押すだけ。他に何もする必要はない。ただ座ってゆったりと本を読むなり、タブレットで映画を楽しむなりするだけだ。Ehangによると、現時点でドローンの概念モデルは、体重250ポンド(113㎏)までの乗客を20~25分間で10マイル(16㎞)運ぶことができる。

自動運転車と比べて、無人飛行機の業界はまだ成熟しておらず、法律がほとんど整備されていないため、規制問題にぶつかることはずっと少ないだろうが、その一方で、安全性という大きな問題が残っている。現在のドローンは、さまざまな原因でしょっちゅう墜落している。バッテリーが「予想外に」早く消耗した、外気温が低かった、信号が途絶えた、理由はわからないが突然落ちた、などなど…

ドローンで乗客を運ぶのであれば、このような事態を避けなければならない。開発元は、冗長機能の導入や緊急着陸手順の作成などで、かなり進歩したと断言していたが、その言葉を証明しなければならない。唯一、信頼に足る証拠は、トラブルのなかったフライトについての収集データだが、こちらも内容を評価する必要がある。

IoT

モノのインターネット(IoT)は複雑だ。CES 2016では、IoTと見なされるデバイスがあふれていた。とはいえ、IoTとは何かを正確に理解している人はいないという印象を受けた。

周りの環境について多くの情報を集め、その情報を利用してさらに効率的なサービスを生み出す機能に、誰もが魅せられている。これはつまり、ドアの錠、エスカレーター、電球、妊娠検査、錠剤、手首、自動車、犬、子供…いたるところにセンサーが設置される、ということだ。

もう1つ、スピンオフしたトレンドがあった。スマート冷蔵庫だ。ここ数年にわたり耳にしてきた、真にスマートでデジタルな家に関する予測の数々が、実に鮮やかによみがえる。インターネットに接続された冷蔵庫が、勝手に食料品を注文して配送してもらう…そう、これがとうとう現実になるのだ…ある程度は。サムスンは、SFの世界からそっくり抜け出してきたようなスマート冷蔵庫を取り揃えて展示していた。どの冷蔵庫もディスプレイが備え付けられており、食料品リストやメニューが表示されていた。

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他の人はどうかわからないが、私は冷蔵庫にクレジットカードの番号を教えたくない。それほど家にいないし、それに、認めようじゃないか…冷蔵庫のセキュリティは万全ではないのだ。セキュリティが突破されるのも時間の問題だ。玄関先まで配達してもらえるのは便利だとしても、いつも同じ商品リストから選ぶより、いろいろな食品を買う方が個人的には好みだ。もしかしたら、私が保守的で感傷的なだけかもしれない。「バイヤー」のパスを首から下げた中国からの来場者たちは、スマート冷蔵庫のそばを片時も離れなかった(空腹だっただけかも)。

ここで質問を。こうした製品は、現実の生活とどんな関係があるのだろうか?

現在のIT業界は明らかに混乱している。IoTはゴールではない。ツールだ。しかも、未来を変えるツールではなく、金を稼ぐためのツールだ。こういう視点でIoTを見てみると、何もかもクリアになってくる。X社はユーザーのYさんについて知れば知るほど、Yさんに効率よくサービスを売れるようになるのだ。

もし、それが本当のゴールなら、何もかも計画どおりに進む。CES 2016では、速度や湿度、活動、バイタルサインなどを測定するさまざまなセンサーが、あちこちに出没していた。残念ながら、利用者の立場から、これは使えると思ったIoTサービスはなかった。

Oakleyのスノーボード用マスクというのが展示されていた。このマスクには速度とSNSのタイムラインが表示される。なので、利用者は最も大切な「滑りを楽しむ」ことに集中できない。心拍数や血圧を測定するデバイスもたくさんあった。しかし、人間の健康な生活に影響を与えるのは滋養に満ちた食事と健全なライフスタイルであって、心拍数を気にすることではない。

とにかく、スマートな妊娠検査やフィットネストラッカー、スマートシャワーといった類いを見続けていたら、だんだん頭がおかしくなってきた。市場には、人に知られたくない個人的な情報を大量に収集するデバイスが大量になだれ込んでいる。私たちは、おとなしく[同意する]ボタンを押し、あとは企業が悪さをせず、データを濫用しないことを祈り続けるしかないのかもしれない。

しかし、それも虚しい期待だ。個人のデータは利用されることだろう。すべての企業ではないにしろ、多くの企業で…。私がCESで話をした企業の中に、データセキュリティを最優先事項とみなしている会社はゼロだった。セキュリティやプライバシーを、少なくともミッションの1つと位置付けているところもなかった。その一方で、すべての会社が高い収益を狙っていた。データ流出が事業に与える影響を考えもせずに。

さて…こうした無知ゆえに、私たちや企業が微妙な立場に追い込まれないように祈ろう。とにかく、スマート冷蔵庫には気を付けて!