仮想通貨の現実。パート3:仮想通貨の政策と今後

このシリーズの最後のパートでは、仮想通貨の政策と今後について、さらにメタバースについて見ていきます。

このシリーズの最後のパートでは、仮想通貨の政策と今後について、さらにメタバースについて見ていきます。

免責事項: 著者の見解は著者個人のものであり、カスペルスキーの企業としての公的見解を示すものではありません。

このシリーズの前半2つのパートでは、仮想通貨NFTは、当初目指していたはずの目標とはかけ離れたところに行きついていることを確認しました。この話はそこで止めておいた方が良いのかもしれません。最初に立てた問いは、NFTで財を成すことができるのかどうかを問うものだったのですから。金持ちになるのは難しいとわかったいま、これ以上何か言うべきことはあるでしょうか。この話を続けるのは、まるで動かなくなった馬に鞭打つようなものではないでしょうか。

ところがあいにく、この馬はまだ完全に息絶えたわけではありません。仮想通貨の世界に足を踏み入れないように、という忠告が皆さんに届いたとしても、最近、仮想通貨の大暴落があってもなお、仮想通貨を存続させようというだけでなく、仮想通貨を私たちの日常生活に深く浸透させようとする大きな力が働いています。そこで、皆さんとお別れする前に、もう1つ最後にお伝えしておきたい重要なことがあります。仮想通貨は当初の約束を何一つ果たしていませんが、果たせたとしても大惨事になるだろう、ということです。

取り付け騒ぎ

まずは、仮想通貨市場の現状から話を始めましょう。2022年5月、仮想通貨の時価総額が1.8兆ドルから1.2兆ドルにまで急落しました。これは、ざっくり言うとポーランドのGDPに相当する額が失われた計算です。この原稿作成時点では、さらに1兆ドルまで下がっています。NFT市場も、2022年前半に劇的な縮小を見せています。これは、エコシステムへの深刻な打撃に端を発したもので、大物たちが流動性の問題に見舞われました。今年11月には、世界最大規模の仮想通貨取引所であるFTXが破産申請を行い、著しい違法行為があったとして経営陣が告訴されています。負債額100億~500億ドルとなるこのFTXの破綻は、仮想通貨業界の今後を変えることになるでしょう。ですが、この事件が起きる前から2022年は大変な年でした。米国ドルと連動するように設計された暗号資産であるステーブルコインTetherTerraなども大きな問題に直面していました。ステーブルコインは、価格変動性を低く抑えることで(変動がないことが理想です)、仮想通貨の世界を離れることなく、資産を保管できるようにすることを目指しています。なので、たとえばEthereumの下落が予想される場合は、預金をすべてステーブルコインに交換し、後でEthereumが下落してから改めてEthereumを買い戻すことができます。この方法では、一時的にであれ、仮想通貨を売却してドルに換えるよりも、必要な時間とコストが少なく済みます。

昨年のBitcoinの為替レート

昨年のBitcoinの為替レート 出典

言うまでもなく、ステーブルコインはドルとの1対1の交換比率を何らかの方法で保証する必要があります。これができなければ、すでに市場に存在する変動性の高い他の仮想通貨と変わらなくなります。ステーブルコインには、アルゴリズムによる手法でバランスを維持するものもあれば、十分なフィアットの準備金を確保することでその仮想通貨の価値を保証するものもあります。いずれのタイプでも、最近の売却の急増にはうまく対応しきれておらず、当然のように、ステーブルコインが重圧の中でもその価値を維持できるかどうかについて、疑問が投げかけられています。このため、その様相を濃くするばかりの沈みかけの船から立ち去ろうとする人が増え、ステーブルコインにのしかかる負担は重くなり、問題を一層悪化させています。ドルとの連動性は失われ、パニックが広がっています。あらゆる仮想通貨の為替レートが影響を受け、他社も足を引っ張られています。今年前半には、仮想通貨融資企業のCelsiusが出金を凍結する事態となり、ついには破産申請をしています[1] 顧客による資金引き出しに起因する流動性の問題に直面しただけでなく、Celsiusはイーサの派生商品(「sETH」)に所有するイーサの多くを投資していました。これは、Ethereumの今後のプルーフオブステークの検証スキーム(パート2参照)に事前出資するものでした。残念ながら、プルーフオブステークへの切り替えはEthereum開発者により先延ばしされ続け、sETHの価値は低下しつつあり、事前出資したイーサは基本的にロックされたままで、Celsiusの支払い能力の問題を悪化させています。。その後まもなく、やはり仮想通貨融資のBabelも流動性の問題から出金を一時停止しました。最近も、FTXの支払い能力の問題に関する噂が浮上すると、まったく同様のことが起きています。すでにかなり皮肉な状況にさらに輪をかけるように、「大衆を銀行から解放する」ために作られたはずのエコシステムで取り付け騒ぎが後を絶ちません。

インフレに晒される仮想通貨

この数か月で売却を急ぐ人が増加し、このような暴落に至った理由について考察することには意味があります。多くの観測筋が合意しているのは、根本原因はインフレだということです[2] エネルギー価格の高騰と為替レートの急落により、マイニングの収益性がますます低下していることがもう1つの理由として挙げられます。。実社会の経済の大部分がインフレの影響を受けています。景気の低迷を受けて、投資家の姿勢はリスク回避的になり、個人も財布の紐を締める必要に迫られています。そのため、このエコシステムの存続に必要な新規参入者が流入しなくなり、エコシステム内の資金が流出しているのです。

これは特筆すべき点です。仮想通貨を支持する側の主な論拠の1つとして、仮想通貨はインフレヘッジや、その他の政府による通貨操作から逃れるための手段になりうると言われていたからです。仮想通貨は発行枚数が定められており、たとえばビットコインの流通量は全体で2,100万枚に達するまでは徐々に増加し、それを超えて増加することは永遠にありません。仮想通貨を信奉する人々の多くは、量的緩和(QE)がインフレの原因であり、通貨に関して政府を信用してはならない証拠だと主張します。しかし、実際はその逆です。仮想通貨市場が活況を呈していたのは、量的緩和政策によって投資家の自由になるキャッシュが供給されていた間だけです。しかし今やそのお祭りは終わり、誰もが出口に向かって殺到しています。

仮想通貨設計時の目標に反して、政府の意思決定が仮想通貨の世界に影響を与えてきたことは周知の事実です。たとえば、中国は国内でのマイニングを禁止しています。仮想通貨を支持する人々が期待したように、仮想通貨が実社会の経済から切り離されたものではないことも、現在は明らかになっています。

ビットコインは、供給量の増加が緩やかであっても、長期にわたり高インフレに直面してきました。このことは、ビットコインがアルゴリズムによる管理では修正できない外部要因に影響を受けることを明らかにしています。

ビットコインは、供給量の増加が緩やかであっても、長期にわたり高インフレに直面してきました。このことは、ビットコインがアルゴリズムによる管理では修正できない外部要因に影響を受けることを明らかにしています。 出典

「政治と無関係な通貨」の不合理性

このシリーズのパート1では、仮想通貨は本来の意味での通貨ではないという見解について説明しましたが、そこには、仮想通貨が改善されることでいつかはその役割を果たせるようになるかもしれないという死角が残されていました。仮想通貨を信奉している人たちの多くは、既存のブロックチェーン技術に欠陥があることを痛感していますが、それでも将来の革新によってすべてが解決されるという見方を変えません。ですが、それは間違いであり、しかもその理由は、人間の技術力に限界があるからではなく、そもそも最初から成功の見込みのない考え方だからです。

歴史を振り返れば、通貨の管理は常に国家の特権でした。7世紀の西ゴート法典では、通貨偽造の調査には拷問の使用が認められていました(有罪者は最終的に手を切り落とされました)。カロリング帝国(西暦750~900年頃)では、このような犯罪は火刑による死刑に処され、15世紀のブルターニュでは釜茹での刑と絞首刑が(この順で)行われていました。現代に至っても、フランスでは1981年に極刑が廃止されるまで、通貨偽造者には死刑が宣告されていました。そして現在の米国は、ホームレスが偽造の20ドル紙幣で食べ物を買おうとすれば3~6年の懲役を言い渡される世界です。依然として、通貨をもてあそんではならないという意図は明らかです。

間違いなくさまざまなことを乗り切っているFacebookも、独自のステーブルコインの発行を目指したときには、この教訓を身をもって学ぶことになりました。このプロジェクトは、大手IT企業(Uber、Lyft、Spotify、PayPal、MasterCardなど)と手を組み、デジタル世界で普遍的に使用できる独自通貨を作ろうというものでした。しかし、米国規制当局からの抵抗に合い、プロジェクトを断念せざるを得なくなり[3] 興味深いことに、8,700万人のFacebookユーザーからデータを収集し、そのデータを利用してソーシャルネットワーク上の有権者に対して非常に的を絞った広告を配信していたことで悪名の高い、Cambridge Analyticaも独自のデジタル通貨の発行を検討していました。同社のプロジェクトは「端的に言えば、個人に対して政府による統制や私企業による管理を押し付けるための手段であり、このテクノロジーの最初の前提を真逆にひっくり返し、ディストピアへと導くもの」と言われました。、知的財産や資産のすべてを売却しました。政府は、即座にこの試みを権力に対する挑戦と受け取り、その芽を摘み取ったのです。

IT企業が独自コインの発行を考える際に見逃しがちな、通貨の重要な側面があります。それは、通貨は、やり取りに使用できるさまざまな交換可能な手段の1つとして、何のしがらみもなく存在しているのではなく、社会の仕組みに深く溶け込んだ、広い経済システムの一部であるということです。安定した経済の維持は、国家が果たすべき重要な役割の1つとして広く受け止められています。そして、もし失敗すれば、劇的な展開が予想されます。1930年の世界大恐慌は第二次世界大戦を引き起こした主要因の1つと考えられています。フランス革命直前の1788年、1789年は2年続きの不作で、一塊のパンの価格が平均的な労働者の給与の88%まで高騰しました(そして統治者にとっては望ましくない結果がもたらされました)。

通貨は、重要なものが危機に瀕した際に国が利用できる手段の1つと考える必要があります。中央銀行は、状況に応じて、通貨の切り下げや切り上げ、さらには通貨の増刷を行うことができ、また、その必要があります。それはなぜでしょうか。そうでなければ、人の命が損なわれるからです。この権力を利己主義的かつ私的な主体の手に渡すべきだ(あるいは、そのような権力は存在すべきでない)という議論は、まさに規制なき資本主義の経済安定効果の妄信に他なりません。これは、たとえば米国で人々から連邦準備制度を奪ってサブプライム危機の責任は自分で担ってもらおうと言うのを、デジタルの世界で行うのと同じことです。そこまで劇的でない例を探すなら、ユーロ圏にもあります。ユーロ圏の加盟国が導入しているグローバルな通貨は、欧州中央銀行が管理しており、金融政策はこの欧州中央銀行に任されています。前述の手段を奪われた加盟各国は、近年の金融危機に立ち向かうのに苦戦してきました。この方針には問題があったことに多くの専門家が同意しています[4] この発言から、私が欧州の人々の連合そのものに反対しているのだと捉えないでください。私の見解としては、その実現において、特にユーロに関する部分で、重大な欠陥があったと考えています。現時点で元に戻すことが現実的だとは考えていないことも、念のため記しておきます。

国家による通貨の切り下げや量的緩和の使用には議論の余地がありますが、そのことが仮想通貨を信頼すべきという論拠として用いられることが少なくありません。これらの手段が使用されても有効でなかったケースが多いことは否定できませんが、だからと言って二度と使うべきでないと主張する十分な理由にはなりません。通貨は政治戦略上、不可欠なものであり、通貨の存在は政治的でしかありえません。そして、政治の本質的な一面として、対立という性質があります。通貨の管理を含め、さまざまなものごとに人々の意見の対立があるからこそ、政治が存在します。このような対立を解決するためにアルゴリズムを実装する必要があるというのが仮想通貨の前提であり、これは、私たちは政治的な問題をテクノロジーによって解決できる、というテクノロジー分野に広まった憂慮すべき信念の表れです。この業界に華々しく台頭してきた存在が、現代社会の運営の基盤となるコンピューターの理解を深めることが、社会そのものの問題の理解につながるという妄想で、多くのコンピューターサイエンティストたちを悩ませてきました[5] 私たちが非常に基本的な経済や外交の原則も知らずにお気楽に生きていることがよく表されているのがこちらのインタビューです。ここでは、Blockchain Capital LLCの相談役が、Bitcoinをグローバルな通貨として使用することが戦争の抑止につながると主張しています。借金をすることが割に合わなくなるため、国家が長期にわたる資金供給を行えなくなり、衝突を起こしにくくなると言います。。これほどの誤りはないでしょう。

  • このシリーズのパート1、パート2で説明したとおり、これまでに考案されたアルゴリズムでは何一つ解決できていません。
  • これから提案されるアルゴリズムは、普及し始めればすぐに否定されることになるでしょう。国にとって、通貨を管理する力を維持することは、国家の存続に必要なことだからです。
  • そもそも、金融政策へのアプローチとして、アルゴリズムは適していません。このような政策は必ず社会的合意に基づくべきであり、定期的な見直しが必要になるためです。そのため、あくまで政治的な領域で扱うべきものです。

さらに、アルゴリズムによる管理は公平かつ公正なものだという考え方も、誤ったものです。中立的なアルゴリズムというものは存在しません。アルゴリズムは、ハードコードされた決め打ちの政策に基づくものにしかなりません[6] このテーマの議論では、「仮想通貨は中立的なテクノロジーである」という意見や、「本質的に透明性が確保されているため、悪質な行為に対する強い抑止力が働く」という意見がよく聞かれます。これは間違いであるだけでなく(注目さえすれば、数え切れない詐欺や市場操作にエコシステムが苦しめられてきたことがわかります)、テクノロジーの画期的な進歩がもたらす社会構造の変革は決して中立的なものではないことが無視されています(印刷機、蒸気機関、電子計算機、インターネットなど)。

仮想通貨の政策

ここで、ブロックチェーンと仮想通貨のテクノロジーにはどのような政治信念が内在しているのかを確かめておく必要があります。それにより、広く採用された場合のリスクがわかってくるからです。「コードこそ法律」なのだとすれば、それはどのような法律でしょうか。

古き良き金本位制

大手の仮想通貨の設計に関する非常に重要なポイントの1つは、通貨の供給に関する部分です。すでに述べたとおり、Bitcoinでは、コインの数に2,100万枚という上限が定められています。Ethereumには上限はありませんが、1年間の発行量が1,800万ETHを超えないように、通貨の発行がコントロールされています[7] Ethereumはガス代として支払われたコインを破棄することでデフレを促します。プールから通貨を削除し続けることで、供給量が増えすぎるのを抑えています。。Bitcoinの当初のホワイトペーパーには「規定数のコインが発行され、流通してからは、インセンティブは完全に取引手数料に移行することで、インフレの発生を抑制する」と明記されており、インフレ対策が重要な設計目標の1つであることの証左となっています。インフレ/デフレのスパイラルが予測不能であることがわかっている金融的手段にもかかわらず、その手段がインフレ/デフレスパイラルの対策として掲げられている矛盾は気にしないことにしましょう。

前章で、インフレ対策とされている手法の欺瞞を明らかにしましたが、これは現在もなお、Bitcoinを支持する側の論点の重要な一要素となっています。Bitcoinが過去に「デジタルゴールド」と呼ばれていたことも、Bitcoinの用語として「マイニング」(採掘)などが使われていることも、驚くにはあたりません。これは、仮想通貨の理論的基盤が金本位制の考え方と密接に結びついているためです。20世紀のある時期まで、法定通貨は物理的な資源(金や銀)と結びついており、国家が発行できる通貨の量はそうした金属との引き換えが可能な量までに制限されていました。通貨を増刷するには、それに先立って金(きん)を確保する必要がありましたが、世界の供給量には限りがあります[8] 米国を金本位制に戻す場合、米国経済を保証するには、世界の金の半分を購入する必要が生じます。すべての国を金本位制に戻すのに十分な金は地球上にありません。。1972年、米国ではさまざまな理由からこの制度を廃止しました。金本位制では政府への制約が大きく、これを保証することが景気浮揚策の妨げとなっていたこともその理由の1つです。

現在では、金本位制の停止はほぼ満場一致の合意事項です。依然として金本位制を主張するのは、CATO Institute(チャールズ コーク(Charles Koch)とマレー ロスバード(Murray Rothbard)が設立した研究所)のような一部の右派系シンクタンクやロン ポール(Ron Paul)のような筋金入りの共和党員のみとなっています。それゆえに、大手の仮想通貨で金本位制が基盤となっていて、仮想通貨支持者からはそれが健全な経済政策として支持されているのには驚かされます。

連邦準備制度を廃止せよ

仮想通貨を創設するうえでの中心的な考え方としてもう一つ、分散型(分権型)という性質により、信頼できる機関の監督なしに運用できる、というものがあります。再び、サトシ ナカモトの最初のホワイトペーパーから引用しましょう。「従来の通貨の根本的な問題は、通貨を機能させるために必要な信頼にあります。貨幣の価値を落とさないためには中央銀行への信頼が必要ですが、法定通貨の歴史は、この信頼に対する背信に満ちています。」この文章で重要な点は、この中央銀行の否定に正当性があるかを確かめることではなく、これが何であるかを認めることです。つまり、これは非常に右派的な思考である、ということです。この考え方がよく表れている例を探すなら、「Your Central Bank Steals Your Money(あなたのお金は中央銀行に盗まれている)」というタイトルの記事や、ブロックチェーン技術に対して批判的なオンラインコンテンツへのコメント欄で見つかります。FTX創業者のサム バンクマンフリード(Sam Bankman-Fried)は、現在の景気後退の責任は連邦準備制度にあると非難の声を上げました[9] 中央銀行が金利操作により、制御不能なインフレを招いているという主張は、その行為がインフレを制御するための対策として実施されているという事実を見落としています。正常な状態では、中央銀行は通常、2%のインフレ率を目指します。これは、正統派経済学者たちがこの数値が最適な目安と考えているためです。(とはいえ、最近の出来事から、バンクマンフリードの経済に関する専門知識に疑問が投げかけられてはいます)。最悪の場合、仮想通貨のエコシステムは、謎に包まれたエリートとディープステートが結託して中間層から財産を奪おうとしているという、反ユダヤ主義とオルタナ右翼の陰謀論にまで陥ります。

中央銀行を必要とせずに経済を動かしていくという考え方は、長きにわたり、リバタリアン的思考の柱となってきました

中央銀行を必要とせずに経済を動かしていくという考え方は、長きにわたり、リバタリアン的思考の柱となってきました

このようなイデオロギーは仮想通貨とともに生まれたものではありません。これ以外の分野で連邦準備制度に批判的な人々に目を向けるとすぐにリバタリアン経済学者(チャールズ ヒュー スミス(Charles Hugh Smith)は金本位制度への懐旧の念を公言しています)やさらに右翼のシンクタンクが目に付きます。これは、アレックス ジョーンズ(Alex Jones)のようないわゆる識者が繰り返し取り上げているテーマでもあります。

リバタリアンと無政府資本主義

ブロックチェーン技術が政治と無関係だったとしても、数十年にわたってその原理を擁護してきた人々は確かに共通のビジョンを共有しているように見えます。前述の人物たちは、アメリカのリバタリアン運動とも関連付けることができます[10] 「無政府資本主義」とも呼ばれますが、従来の無政府主義学派からは、妥協しがたいイデオロギーの不一致により関係性を否認されています。。彼らの哲学の中心にあるのは、国家の絶対的権力を否定する形で体現される自由という考え方です。彼らの主張では、国家は個人の自由な権利に対して容認できない制限を課すものであり、私有財産を保護する以上のことは行わないよう、可能な限り最小限に留める必要があるとされています。特に、富の再配分や経済と自由貿易に関する規制を行おうとするのは、市民の私生活に対する許されざる侵害だという見解を持っています。

HateWatchには、Bitcoin初期の熱狂と極右過激派の関与が記録されています

HateWatchには、Bitcoin初期の熱狂と極右過激派の関与が記録されています

仮想通貨ユーザーの誰もがリバタリアンを自認していると言いたいわけではありませんが、ブロックチェーンの設計にリバタリアンの理想が完全に取り入れられていることに異議を唱えるのは難しいでしょう。従来は周辺的な経済理論であったものを一般的な議論の中心にするうえで、仮想通貨のエコシステムが重要な要因となったことも明白です。「右派は悪い」というような幼稚な道徳的判断に陥ることなく、仮想通貨によって変容する社会を想像するには、リバタリアニズムの政治哲学を批判的に見直す必要があります。これについては、幸い、優れた頭脳の持ち主たちがすでに取り組んでくれています。私個人の知識の範囲では、ノーム チョムスキー(Noam Chomsky)の話を挙げておきましょう。彼はリバタリアン社会主義者を自認しています[11] 無政府資本主義に無政府主義との関連性がほぼないのと同じように、リバタリアン社会主義はリバタリアニズムとは大きく異なります(ただし実際には無政府主義と非常に近いものです)。ややこしいですが、ついてきてください。。また、皆さんのお好みでこちらのリストもご参考になるでしょう。あるいは、ダーウィン的な適者適存の市場原理が社会にとって最善だという考え方に同意しているなら、ここからいくつかの段落は飛ばしてください。

リバタリアンは、誰も社会契約に同意していないことを根拠に、国家の権力を否定しています。私たちは、生まれながらにその国の法律に縛られ、拒否する機会を与えられることはない、と言うのです。自由は、彼らにとって基本を成す重要な価値であり、次の3つを意味します。

  1. 社会におけるやり取りはすべて、当事者が自由意志によって同意した、双方の合意によってなされるべきである。
  2. どのような種類の合意を取り決めることができるかについては、特に国家によって、どのような制限も課されるべきではない。
  3. 国家の権力は可能な限り制限される必要があり、当事者間の直接の合意事項の実施に関する仲裁者としての役割のみを果たすべきである。

同じような人たちの間ではすばらしい体制のように聞こえるでしょう。しかし、現在私たちが生きている世界は残念ながら、そのような世界ではありません。やり取りする人々の間には、富や権力にさまざまな違いがあるのです。ジェフ ベゾス(Jeff Bezos)が私から何かを欲しいと思えば、ほぼ間違いなく、彼の指定する条件で、それを手に入れることができるでしょう。私には法律上は拒否する自由がありますが、どれだけ抵抗して見せたところで、容易に打ち負かされるでしょう。力の不均衡があまりにも大きいためです。リバタリアンはこれを問題だとは考えず、システムの特性の1つと捉えます。彼らにとっては、能力の優れた人間やビジネスに長けた人間がその対価としてより大きな力を得ることは自然なことなのです。

一部のBitcoinサークルで繰り返される「Taxation is theft(徴税は窃盗)」は、リバタリアンの掲げるスローガンの1つです。これは、再配分の仕組みに対する強い異議を表したものです

一部のBitcoinサークルで繰り返される「Taxation is theft(徴税は窃盗)」は、リバタリアンの掲げるスローガンの1つです。これは、再配分の仕組みに対する強い異議を表したものです

問題は、リバタリアンが掲げる一連のルールは、時間をかけて徐々に権力が集中する結果につながることです。強い力を持つ人は、その立場を活かして、他の分野でも優位性を得ることができ、そうやって得られた他よりも少しでも優位な立場をさらに活用していくことができます。魔法のように社会をリセットして、純粋に平等主義の状態にできたとしても(そのようなことはリバタリアンが意図していることではまったくありませんが)、ほんの数世代で振り出しに戻ることでしょう。大富豪や多国籍企業のように、すでにうまくいっている人や組織にとって、このようなイデオロギーが魅力的に映るのは無理もないことです。彼らにとっては、その力をさらに強めて、楯突く者もいないような環境を実現することが何よりも望ましいのです。ジョージ オーウェル式に言えば、「リバタリアニズム」という言葉は、最終的には、まったく逆の意味を持つことになるでしょう。リバタリアニズムの実現は、その結果として企業の絶対的権力による支配を招き、民間企業が事実上、制約を受けない、無制限の権力を手にすることになります。

注目すべきは、このような評価はもはや単なる理論上のものではないことです。仮想通貨の世界はリバタリアニズムの考え方に基づいて構築されており、彼らの理想とする社会の縮図と見ることができます。このシリーズのパート1、パート2では、実際にすでに裕福だった人の手にさらに権力が集中している結果になっている、ということを説明してきたつもりです。最後に1つお伝えしたいのは、これは、不幸な副次的影響ではなく、基盤となる構造の設計に由来するものだという結論です。

今後

リバタリアンが自分たちの小さなディストピアで生きていく分には、インターネット全体に影響を及ぼすリスクが大きくなければ、私はあまり気にしないでしょう。仮想通貨が近い将来に主流になることはないと私は考えていますが[12] 少なくとも現状では、ないでしょう。CBDCには広く受け入れられる大きな可能性がありますが、毛色の違う話になるため、ここでは取り上げません。、他にもブロックチェーンをベースにした新しいテクノロジーが試され、展開されています。

Web3

そのようなテクノロジーの1つにWeb3があります。この言葉には曖昧さが残っていますが、インターネットの概念そのものを改めて捉え直すものとなります。ここでも、分散型が前提となっています。現在のインターネットサービスの多くは、Google、Amazon、Microsoft、Facebookといったいくつかのプラットフォームが中心となっており、そうしたプラットフォームの優位性については、有意義な反論ではないにしろ、少なくとも多くの人から批判がなされています。Web3の根底にある考え方は、現在はこうしたプラットフォーム企業で保管されているユーザーデータを、将来的にはブロックチェーンに保存することで、改めて分散型の状態を実現できるというものです。

オンライン決済はイーサで行われ、PayPalやStripeのようなサードパーティの決済代行会社を介さず、ウォレット(財布)はブラウザーに直接組み込まれます。ドメイン名の解決も、ブロックチェーンを検索することで行われます。アクセス制御には、NFTとスマートコントラクトが使用されます。おわかりいただけたでしょうか。

ここで見て見ぬふりをされている大きな問題があります。非常に非効率的なブロックチェーン技術で、果たしてインターネット全体の負荷に耐えられるのかという問題です。ブロックチェーンの処理には法外ともいえるコストがかかるなど、いくつかの問題をすでに指摘していますが、一般の人々がブロックチェーンを利用できるのかどうかが大きな障害となります。どうにかして世界中のデータをブロックチェーンに移行できたとして、1人のユーザー、またはウェブサイトの所有者がブロックチェーンにアクセスするにはどうしたらよいでしょうか。ブロックチェーンは分散型、分権型ということになっていますので、そのデータのコピーを入手することはできるでしょう。実際に、それ自体は簡単なことです。十分なストレージ領域さえあれば。Ethereumのブロックチェーンは現時点で875 GBあり、この数字は増加する一方です。もちろん、完全なコピーは必要ないかもしれません。しかし、この1つのブロックチェーンの最新分10%を保存するだけにしても、多くの場合は現実的ではありません。モバイルデバイスではまったく考えられないことです。

この問題を回避するため、InfuraOpenSeaのような一部の企業はインターフェイス(API)を開発して、プログラマがブロックチェーンの状態やブロックチェーンで保証されたオブジェクト(NFTなど)にアクセスするためのクエリを実行できるようにしています。この方法であれば、データのコピーは必要なくなります。必要に応じて信頼できる機関に問い合わせれば、その機関がブロックチェーンで検索して、結果を返してくれます。おっと、今私は何と言ったでしょうか。そう、「信頼できる機関」です。ブロックチェーンから情報を取り出すタスクは面倒であり、一部の企業に任されているため、それらの企業がブロックチェーンに含まれている内容の事実上の権利者になっています。ブロックチェーン関連のほぼすべてのWebサイトが内部的にはこのようなサービスに依存しています。実際の情報がイミュータブル(変更不可能)で分散型になっていても、そのデータの表示部分がすべて単一障害点でコントロールされていたら、大した意味はありません。ここまでに取り上げてこなかったブロックチェーン支持者の最後の主張として、検閲耐性がありますが、この主張も無理があります。事実として、エコシステムの秩序を維持するために検閲は行われています。たとえば、OpenSea [13] NFT市場の97%を占め、まだ分散化(分権化)されていると確信できるプラットフォームです。では、盗まれたNFTの転売を防止するため、盗まれたNFTは無効化されます。この特権が一方的に乱用された例もあります。ブロックチェーンの世界では、さまざまな形で、ブロックチェーンによって打破しようとしてきたのとまったく同じ構造が再現され続けています。

どのような説明がついているにしても、Web3の欄に挙げられているのはプロトコルではなく企業です。Web3の目的は、分散化というより、監視役の交代です

どのような説明がついているにしても、Web3の欄に挙げられているのはプロトコルではなく企業です。Web3の目的は、分散化というより、監視役の交代です

Web3が日の目を見ることがあるのか、私はかなり疑問視しています。それどころか、ブロックチェーンに拡張性がないことはすでに確認してきたとおりで、実社会へ適用するには十分でないのに、Web3はインターネット全体を対象にすることを目標にしています。もう1つ、Web3が直面するであろう重大なハードルは、ブロックチェーン上ですべてを公開することは、時代に逆行することになるということです。過去10年は、ユーザーデータの適切な取り扱いに関する議論の連続だったと言えます。初期設定で公開になるプロフィールや画像に関してさまざまな批判があり、いくつかの国々では対応する法整備が行われました。ブロックチェーンに保存される個人情報について、EU域外への個人データの移転に関するGDPRの規定を遵守できる方法をご説明いただける方がいらっしゃれば、ぜひお知らせください。この新しい枠組みは、IT系スタートアップ企業のニューウェーブが、個人情報の排他的な管理に異議を唱えることで、既存巨大企業の王座を奪取しようとする試みだと捉えている人たちもいます(これについては、たとえばダン オルソン(Dan Olson)の素晴らしい動画があります)。そしてこれが、Web3を軌道に乗せるうえでの最大の障害になる可能性があります。大手企業は遊びに付き合うつもりはないからです。

Second Lifeに続くThird Life

実のところ、大手企業にはそれぞれに思い描く素晴らしい新世界のビジョンがあり、その中心にいるのは自分たちだと考えています。Microsoftは独自のメタバース戦略を公表しています。Facebookは社名まで「Meta」に変えました。メタバースというコンセプトの可能性にかける信念に突き動かされた、信じられないような一手です。元のブランドとはかけ離れていて、意見の衝突を避けがたい非常にデリケートな話となっています。

どちらがリアルかまだわかりません

どちらがリアルかまだわかりません

メタバースのコンセプトを理解するには、2018年の映画『レディ・プレイヤー1』が参考になるでしょう。この映画を見たことがなくても、予告編を見れば、あちこちに出ている記事を読むよりもよくわかるでしょう。メタバースは、仮想現実(VR)のヘッドセットを装着してアクセスするパラレルワールドですが、ハードウェアの部分を除けば、基本的にはSecond Lifeと同じです。現実世界を拡張した空間で、動き回ったり、友人と一緒に過ごしたり、仕事をすることもできます。「だから何だ?」とお思いでしょうか。確かに、こうしたことはすでに現実世界でできていることです。しかし、それだけを理由に「メタバース」を退けることはできません。インターネットが登場したとき、人々が懐疑的だったことは周知のとおりです。インターネットも当初は理解されませんでした。メールは郵便で送れましたし、必要な情報はすべて新聞で得られていました。実物を確かめもせずにオンラインストアで商品を注文するなど馬鹿げていると思われたものです。しかし、それから30年後の現在はどうでしょうか。作り手がいて、消費者のニーズが決まるのであって、その逆ではないのです。社会のやり取りがすべて移行してしまえば、メタバースを使わざるを得なくなるでしょう。IT好きの人々は、これはインターネットと同じようなスケールの、まさに新たな革命だと表現しています。

ブロックチェーンなきメタバース

しかし、メタバースが私たちの生活に影響を与える可能性があるかどうかを考える前に、もう1つ明らかにしておくべきことがあります。ブロックチェーンとのつながりはどうなっているのか、という点です。2002年に遡ると、Second Lifeは、このシリーズで説明してきたテクノロジーに頼ることなく、その仮想世界と独自通貨によって、何とかある程度の成功を収めていました。しかし、現在のコンセプトではメタバースはまた違ったものになるでしょう。さまざまな主体によってそれぞれの世界が運営され、その世界の間を、隣の島に渡るような感覚でテレポートできるようになります。ユーザーエクスペリエンスの一貫性を実現するには、すべてのメタバース間で情報を共有できる必要があります。Microsoftの空間で自分のアバター用に本物のNIKEのシューズを購入したのに、Facebookの空間に移動したら裸足になっていた、というのでは困ります。この問題の解決策として一部の人々が提案しているのは、メタバースで「所有可能」なオブジェクトにはすべてNFTを使用すべきであり、ブロックチェーンをある意味で、デジタル世界全体の相互運用の仕組みとして利用する方法です。

しかし面白いことに、MicrosoftやFacebookは現在、メタバースのコンセプトについて盛んに喧伝しているにもかかわらず、ブロックチェーンにはほとんど言及していません。彼らはAdobe、Nvidia、Alibaba、その他多くの企業と共にMetaverse Standards Forumというコンソーシアムを立ち上げていますが、そこに名を連ねる企業や団体をざっと眺めると、ブロックチェーン関連の組織は含まれていないことがわかります。つまり、仮想通貨業界の思惑はどうあれ、大手IT企業は我が道を行く計画だということがわかります。実際のところ、複数メタバースの問題には、もっと明快な解決策があります。圧倒的な主導権を握ることです。メタバース空間に進出する大手企業がブロックチェーンを話題にしないのは、現時点では相互運用性の確保は次善の策でしかないからです。むしろ、競合を一掃して、唯一無二の巨大な(自分たちの)島を世界中のユーザーに使ってもらう方がはるかに都合がよいのです。歴史からわかることがあるとすれば、「オープン」にすることで、使ってもらえるチャンスが大きく広がります。皮肉にも、そこで戦略的に勢いを付ければ、ユーザーを囲い込むのに適したタイミングが訪れます。

メタバースに懸念を持つ理由

皮肉なことですが、ギリシャ神話のミダス王のように触れるものすべてを金に変える夢のようなブロックチェーンによってメタバースも打倒されるだろうと信じることができれば、メタバースというコンセプトへの懸念は軽くなるでしょう。ですが、繰り返しになりますが、ブロックチェーンは今日に至るまで実用的な用途がただの1つも見つかっていないテクノロジーです。それは、本質的に制限があるためです。ブロックチェーンをメタバースから切り離しても、両者の根底にはリバタリアンのイデオロギーが横たわっているという事実は変わりません。そして、メタバースでは、企業による専制へと堕していくのは避けられないことがよりはっきりと感じられるでしょう[14] 面白いことに、『レディ・プレイヤー1』の筋書きには、親会社からメタバースの管理を奪い取ろうとする部分があります。。一部の思想家はこのような特定のブランドによる支配を「テクノ封建制(デジタル封建制)」と呼びます。ソーシャルメディアが世界中の社会組織を破壊している可能性についてさまざまな議論がなされています。それでもなお、常に私たちを裏切ってきた組織が管理しているデジタル空間で人生の半分を過ごしたいと思うでしょうか。

私たちに選択肢はないのかもしれません。現在、メタバースに大規模な投資を行っている企業は、世界で最も力のある企業でもあります。彼らは、(圧倒的な地位あるいは圧倒的なマーケティング力によって)彼らにとってメリットのある新たな枠組みを私たちに押し付けられるだけの力を持っているでしょう。今のところは、VRヘッドセットが高価であることが壁となって、私たちは守られていますが、それもいつまでも続きはしないでしょう。20年もすれば、強いインセンティブが働いて一家に一台は持つようになり、メタバースに抵抗すれば社会的に孤立するリスクが伴うようになるのではないかと危惧しています。

エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー

なぜIT企業は存在理由をかけてこの熾烈な争いに加わろうとするのか、その理由に関する私の考えをお伝えして、このセクションを終わりにしましょう。それは、後期資本主義は構造的な問題に直面しているという事実があるからです。この仕組みの中では成長が求められます。事実、成長を続ける者だけが生き残ることができます。しかし、ものには限度があり、成長はどこかで頭打ちにならざるを得ません。道徳的な理由から成長を止めるのではなく、いずれはこの地球上の資源が枯渇するからです。「有限な世界で無限の成長はあり得ない」という言い回しが、反成長主義や、資本主義からの脱却を支持するためによく使われています。これに対する資本主義からの天才的な回答は、現実は置いておいて、新しい世界を作ろう、というものです。仮想的な無限の世界を作れば、今後は、未来永劫価値を生み出すことができます[15] 多くの億万長者たちが宇宙開発や新しい惑星への移住の可能性に熱を上げている理由もこれで説明が付きます。

この視点からメタバースを見てみると、何よりまずマーケットプレイスとして設計されている理由が理解できるでしょう。実世界のあらゆる商品を仮想世界で作り直して、改めて販売することができます。そして多国籍企業は強大な力を持つ地主となるのです。最終的にたどり着くのは、私たちの生活のあらゆるもののコモディティ化です。私個人としては、それには関わりたくないと思います。

まとめ

ブロックチェーンの欠点をすべてあげつらって終わりにするのは簡単でしょう。これまでに提案された(そしてまだ実現が望まれている)用途はどれも不合理なものです。何一つうまくいっていません。完全に無用の長物で終わってくれるのが最善のシナリオです。しかしおそらくは、私たちの地球に破壊をもたらし、まったく新しい形の圧制を招くことになるでしょう。同時に、彼らのほとんど宗教的なまでの情熱は、私たちにまた別のことを教えてくれます。ブロックチェーンの夢には、より公平な社会の実現という約束がついていて、そこには、人々の生活を幾度となく破壊してきた金融の世界に対するささやかな復讐もない交ぜになっています。それを諦めるのが難しいのは、当然かもしれません。

本当に頭にくるのは、その代替手段がいかに搾取的であるかということです。すべてを失った人々の証言を読んでみてください。心が痛まないでしょうか。疑わしい金融投資が問題なのではなく、現代の社会では、人々が心の底では博打だとわかっているような手段を取らなければ、自分の生活を改善する見込みもない状態に置き去りにされていることが問題です。しかもその手段は、実は権利をはく奪された人々から富める人々へと富を移動させる秘密の道具だったのです。

このシリーズの最後の段落まできてやっと、ブロックチェーン、仮想通貨、NFTが役に立つ最初の用途が見つかりました。これらのテクノロジーが何であるかは問題ではなく、これらによって、世界の状況が、そして人々に課された耐え難い不平等の存在が明らかになった、ということです。私たちが何か対策を打たなければ、社会は間もなくどのような状態となってしまうのか、ということです。これに留まらず、読者の皆さんが、現在どこにいても、苦境から立ち上がろうとしているなら、無事にやり遂げられることを心から願っています。ただし、ブロックチェーンはそのための手段にはなりません。

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