強力に暗号化された通信は、安全でプライバシーが確保された通信です(ただし、暗号化が施された通信ソフトウェアやプロトコルに不正がないことが前提です)。したがって、強力な暗号化を採用している企業は、顧客のプライバシーとセキュリティに配慮している企業だと言えます。
電子フロンティア財団(EFF)は常に、ユーザーのデータを慎重に扱うIT企業や通信企業を広く一般に伝えようとしています。一方で、ユーザーデータの保管方法がお粗末な企業については、容赦なく社名を公表して批判します。
EFFがこのほど公開したレポート「Encrypt the Web」では、まさにこの通りのことが行われました。EFFは、検索大手Google、インターネットサービスプロバイダーSonicNet、クラウドストレージプロバイダーのDropboxとSpiderOakといった企業を、顧客のデータを強力で全面的な暗号化で保護しているとして高く評価しています。EFFのレポートで特に高い評価を受けたこの4社は、データセンターリンクの暗号化、HTTPS、HSTS、Forward Secrecy、STARTTLSのサポートという5つのカテゴリすべてで基準を満たし、チェックマークを獲得しました。各カテゴリについて簡単に説明すると、まずデータセンターリンクの暗号化とは、Googleが自社のデータセンター間で送受信するデータ(過去に攻撃を受けたことが知られる弱点)を暗号化しているということです。次にHTTPS(Hypertext Transfer Protocol Secure)は、実装することでユーザーと特定のWebサイトの通信が必ず暗号化されたチャネルを通るようになります。HSTS(HTTP Strict Transport Security)は、ユーザーとの通信が常時HTTPSで行われるWebサーバーセキュリティポリシーです。Forward Secrecy(Perfect Forward Secrecyともいう)は暗号化の仕組みであり、1つの鍵を盗まれたとしても通信がそれ以上解読されないという理想の状態でもあります。STARTTLSはメールの拡張機能のようなもの。平文のメール通信を暗号化された通信に切り替えて、どんなメールクライアントを使用していてもメールが暗号化されるようにします。
少し話が逸れてしまいましたが、先ほど書いたように、Google、SonicNet、Dropbox、SpiderOakが今回のレポートでトップに立ちました。Facebookは特別賞といったところでしょうか。対象のすべての暗号化機能を実装中であるため、条件付きで5つすべてのチェックを獲得しています。Twitterも評価が高く、STARTTLSを除く全カテゴリでチェックマークを獲得しました。
LinkedIn、Foursquare、Tumblrはチェックが3つで、ちょうど中間の評価でした。Yahoo!のチェックは1つでしたが、導入を計画しているポリシーがあり、条件付きでもう1つチェックを獲得しています。AppleはiCloudでHTTPSをサポートしているためチェック1つ。Microsoft、MySpace、WordPressも同じくチェック1つでした。
EFFによると、暗号化に力を入れていない企業は、Amazon、AT&T、Comcast、Verizonです。この4社はいずれもチェックがゼロでした。
EFFは今年、「Who’s Got Your Back?」というレポートも発表しています。さほど意外ではないと思いますが、その結果は今回のEncrypt the Webレポートと同様でした。Who’s Got Your Backは、IT企業や通信企業が、政府のデータ開示要求に簡単に応じているか、それともユーザーのプライバシーの権利を守っているかを調べたレポートです。どちらのレポートでも、Twitter、Google、SonicNet、SpiderOakの取り組みが支持され、Apple、Yahoo!、Verizon、AT&T、Comcast、Amazonが厳しい評価を受けています。
もちろん、この2つのレポートは公開時期が離れているため、その間に多くの変化がありました。政府が支援する諜報活動についてさらなる事実が判明したのです。2つのレポートに相関関係があるとすれば(私はあると思います)、それは政府や悪意のあるスパイ行為からのプライバシー保護を強化しようという動きが一部のIT企業に見られるということです。
EFFの上席弁護士クルト・オプサール(Kurt Opsahl)氏は次のように述べています。「このレポートが企業にとっての励みになればと思います。他社が高い評価を得ているのを見れば、自分たちも暗号化を強化しようという気になるかもしれません。」
EFFは今回のレポート作成にあたって各社に調査票を送りました。回答がなかった企業もあるため、企業のWebサイトやニュースレポートなどの情報源も評価の材料とされています。各社は、HTTPS、HSTS、Forward Secrecy、STARTTLSをサポートしているか、データセンターリンクを暗号化しているかについて質問を受けました。
では、今回のレポートはユーザーにとってどんな意味があるのでしょうか?私は、どのサービスを利用すべきか、利用すべきでないかといった推奨はしません。誰しも(EFFの人も)暗号化にあまり力をいれていないサービスを利用していると思うからです。ここで重要なのは、Threatpostのマイケル・ミモソ(Michael Mimoso)が書いたように、「誰かに正しいことをやらせたいなら、仲間からちょっとプレッシャーをかけてやるのが一番」ということです。