インターネット上のプライバシーに対する人々の意識は高まり続けています。それから、不安も。それも当然、インターネット上でのトラッキングは近頃は広範囲に及び、誰もが影響を受けるのですから。デジタルマーケティングシリーズの最終回となる今回の記事では、マーケターがインターネット利用者のオンライン行動を追跡するために使用しているツールを簡単にご紹介します(背景については、パート1とパート2をご覧ください)。
Cookie
「Cookie」という言葉は、耳にしたことがある方がほとんどでしょう。これは、Webサイトが訪問者のコンピューターに保存する小さなテキストファイルです。WebサイトはCookieを使って、さまざまなことを行います。利用者のオンライン行動を追跡する、Webサイトの滞在時間を把握する、ログインしたセッションをそのまま維持する、表示言語などのカスタム設定を覚えておく、などなど。
訪問先のWebサイトのサーバーが設定するCookieはファーストパーティーCookieと呼ばれ、分析や機能上の目的だけに使用されることがほとんどです。この種類のCookieはたいていが必須であり、これがないとサイトに機能上の問題が生じる恐れがあります。
一方、サードパーティーCookieは、利用者がアクセスしているサイトの所有企業とは異なる組織が設定するCookieで、インターネット上のプライバシーに対する脅威となり得るものです。Webマーケターにとって、こうしたCookieがどれほど魅力的なのかは想像に難くありません。さまざまなWebサイトで利用者の行動を追跡するためのファイルなのですから。そこで、代表的なマーケティング企業をコンピューターから閉め出すには、ご使用のブラウザーでサードパーティーCookieのブロック設定を確認することをお勧めします。
Web上でも指紋は人それぞれ
強力なトラッキング手法であるフィンガープリンティングは、Cookieよりもはるかに高度な技術であり、追跡をかわすのは困難です。フィンガープリンティングでは、スクリプトを使ってデバイスに関する情報を収集します。たとえば、デバイスの種類やOS(PC、iPhone、iPad、Android、BlackBerryなど)、インストールされているブラウザー拡張機能、JavaやFlashなど一般的なプラグインのバージョン、文字コード、言語、タイムゾーン、画面解像度、インストールされているフォントの一覧などです。
こうした情報をすべてまとめてデバイス固有のIDが作成されます。まったく同じデバイスを2台購入した人が同じ場所で初めて電源をオンにすると、まったく同じフィンガープリントが作成されますが、別の人が自分好みに設定を変更して数時間使用すると、それぞれ異なるフィンガープリントに変わります。
Cookieより強力、ローカルストレージ
訪問者の閲覧履歴を取得可能なWebサイトを開発するのは簡単です。この履歴はWebマーケターにとって宝の山。もちろん、ブラウザーの閲覧履歴やCookieを削除する方法は誰でも知っていますが、定期的にやっている人はいるでしょうか。それからHTML5では、訪問者のコンピューターにデータを保存する仕組みがCookieの他にもあることをご存じでしたか?
ローカルストレージとセッションストレージ。ローカル、つまり利用者のブラウザーには大量のデータを保存できます。これがローカルストレージとCookieとの大きな違いです。セッションストレージには、実行中のブラウザーセッションのデータが保存されますが、ブラウザーのタブを閉じるとすべてのデータが失われます。ローカルストレージに保存されたデータには有効期限がないので、理論的には利用者が手動でブラウザーのキャッシュを削除するまで、コンピューターに情報が残ります。ローカルストレージにアクセスできるのは、データを保存したドメインだけとはいえ、なかなか安心できません。
マーケターの狙いは、訪問者の興味・関心
では、Webマーケティング戦略について、詳しく見ていきましょう。マーケターは、利用者の興味や関心事に関する正確なプロファイルをどうやって描くことができるのでしょうか?簡単です。訪問先のWebサイトには、サードパーティーの広告スクリプトや追跡スクリプトが仕込まれているものだと考えてください。複数のWebサイトが同じ広告ネットワークやDMP(デジタルマーケティングプラットフォーム)を使用している場合、Cookieやローカルストレージに保存したデータや、追跡パラメータを介して送信したデータは、これらのサイト間で共有されます。つまり、先ほど説明したローカルストレージの制約は事実上なくなるのです。
たとえば、先日Salesforceが買収したKruxという会社は、1か月に2000億件以上のデータ収集イベントをサポートし、30億を超えるブラウザーやデバイスとデータのやりとりをしています(英語記事)。Kruxの追跡スクリプトは世界中の無数のWebサイトでホストされています。
Kruxの概念を、例を挙げて説明してみましょう。vice.comとallrecipes.comはそれぞれ独立したWebサイトで、利用者情報を共有しているようには見えません。しかし、どちらのサイトもKruxのスクリプトをホストしているのです。これらのWebサイトに別々の日時にアクセスしても、KruxのCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の1つ、cdn.krxd.comによって同じキーがローカルストレージに保存されます。
Webサイトに複数の(時には大量の!)サードパーティーの広告ネットワークやDMPスクリプトを実装する傾向はますます強まっていて、マーケターは訪問者のデータをまとめやすくなっています。マーケターは、こうしたデータを駆使して市場を細分化(セグメンテーション)します。地理や人口動態、そして何よりも行動など細分化の基準はさまざまですが、要はインターネット利用者のリアルな関心事をベースにその人を数値化しているのです。これが、利用者の関心、最近検索した内容、アクセスしたWebサイト、購入履歴に基づいてターゲット型広告が表示される仕組みと理由です。
マーケターの狙いは、訪問者の感情
このシリーズのパート2で、ソーシャルマーケティングについて説明しました。ソーシャル広告の爆発的な増加に伴い(2017年には360億ドルに達する見込み。リンク先は英語記事)、開発者が使用できるトラッキングツールも増えています。中でも興味深いのは、SNSに適用される感情分析です。感情分析では、ボットがSNSやブログへの投稿を解析し、ある事柄について私たちが抱く感情を理解しようとします。
一番単純なのは「いいね」や顔文字ボタンの分析です。たとえば、カリブ海クルーズの記事に笑顔のアイコンをつけてシェアした場合、この投稿者は海外でのバケーションが好きと分析されます。また、政治家への反感を示す記事を思わず投稿することもあるでしょう。この場合、投稿者の政治志向が分析されます。こういったデータを総合すると、投稿者の完全なプロファイルを定義することができ、ある意味、投稿者の友達よりも深く投稿者のことを理解できるかもしれません。
マーケターはコンテキストも考慮
マーケターは、前述の感情分析ボットと同じようなボットを使用して、Webサイト上にコンテキスト広告を出します。この種のターゲット型広告では、自動化されたシステムでWebページのコンテンツを解析してそのページの話題を理解し、それから文脈に応じた広告を出します。コンテキスト広告は、行動ターゲティング広告とネイティブ広告を組み合わせたもので、きわめて用心深い人の心にまで入り込んで広告をクリックさせる奥義です。
ネット利用者を見つめる大きな目
マーケターは、感情やテキストの分析だけでは満足できません。まだまだ多くを必要としています!利用者の真後ろに立ち、肩越しにディスプレイをのぞき込むかのように観察していたいのです。これとかなり近いことができる特別なスクリプトが、さまざまなWebサイトで使用されていて、利用者のマウスの動きやクリック操作をマーケターに記録させています。このデータを利用すれば、セッションのビデオキャプチャや、次のようなヒートマップを作ることができます。
自分の身を守るには
読者の皆さんの中には、マーケターによる追跡をあまり気にしない方もいるでしょう。自分が今Amazonで何を買ったのか、自分の伴侶がFacebookに何を投稿したのかをニュースサイトの広告に知られてしまう。皆さんには、こうしたことに煩わされない権利があります。同時に、オンラインサービスやネット接続可能なデバイスを利用しているなら、営利目的の組織にどの程度の情報を差し出しているのか、知っておくべきだと考えます。
以上を踏まえて、Webトラッキングから身を守るためのヒントをご紹介しましょう。
- ブラウザーのCookieの設定を変更しましょう。サードパーティーCookieを拒否し、サードパーティーCookieとローカルストレージにデータが保存されないようにしてください。この設定は、セッションストレージとローカルストレージにも影響します。ブラウザーでCookieを管理する方法を知っておきましょう(Chromeの場合はこちら、Firefoxの場合はこちら、Internet Explorerの場合はこちら、Edgeの場合はこちら、Operaの場合はこちら)。
- ブラウザーを閉じたときに、ローカルデータが自動的に消去されるよう設定しましょう。たとえば、Google Chromeの場合、[設定]→[詳細設定を表示…]を選択し、[プライバシー]セクションの[コンテンツの設定]ボタンをクリックして、[Cookie]の[ブラウザを終了するまでローカルデータを保存する]をオンにします。たったこれだけです。
- カスペルスキー インターネット セキュリティ(カスペルスキー セキュリティのWindows対応プログラム)のWebトラッキング防止をオンにして、フィンガープリンティング、感情分析、セッション追跡、分析ツールなど、あらゆる種類のトラッキングをブロックしましょう。カスペルスキー インターネット セキュリティのメインウィンドウ左下にある歯車アイコンをクリックして[設定]ウィンドウを開き、[プロテクション]を選択します。ウィンドウ右側で下方にスクロールして[Webトラッキング防止]をクリックし、表示された画面で[データ収集をブロックする]を選択します。既定では、このオプションは有効になっていません。