ロシアのメディア各社は、秘密情報をやりとりするための安全な通信手段として広く使われているMicrosoft社のインターネット電話サービス「Skype」が、同社のこれまでの主張とは異なり、政府による監視を受け入れている可能性が高いと報じています。
2008年、当時EBayによって所有されていたSkype社は、米国をはじめとする誰であってもSkype上での通話やインスタントメッセージを傍受することはできないとCNETに語り、理由として同社のピアツーピア構造、暗号テクニック、さらに当時同社が本拠を米国外に構えていたことを挙げました。インターネットセキュリティ業界に注目している方々であれば、Skype社が2011年、米国ワシントン州レドモンドに本拠を構えるソフトウェア界の巨人、Microsoft社によって数十億規模で買収されたことをよくご存じでしょう。
Skype社が米国を本拠とするMicrosoft社の所有となった今、いくつかの疑問が挙がってきました。Skypeは米国の法律、特に盗聴法「Communications Assistance for Law Enforcement Act(KALEA)」に従わねばならないのか、従わなくてよいのか?Microsoft社の広報担当がNew York Timesに語ったところによると、Skypeの本社はルクセンブルクに留まり、米国の法律による拘束は受けないとのことです。この話題は、2013年1月に電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)および複数人権団体によって提出された公開質問状に端を発しています。この質問状は、買収を受けてセキュリティ業界が表明したあらゆる懸念を反映しているかのような内容でした。
Microsoft社は、私たちが知るかぎり(コメントの依頼には応じてもらえませんでした)、政府による合法的な通信傍受のほう助に関わっているとの見方を完全否定しています。しかし同社による否定や、基本的に沈黙を守るという同社の姿勢は、Skypeの顧客からすると大した気休めになっていません。顧客とは、格安国際通話を求める人々にとどまりません。たとえば企業は、会議ではVoIPサービスを、機密情報や知財情報に関する国際通話ではSkypeを利用します。ジャーナリストは、特別の配慮が必要な情報提供者とのやりとりにSkypeのサービスを利用します。また、好むと好まざるとにかかわらず、悪い輩もSkypeを利用して犯罪的計画を組織します。さらに気がかりなのは、「アラブの春」に代表される運動にかかわる活動家がSkypeを利用して、独裁政権による統制下にありながら互いにコミュニケーションを図り、互いに連携してきたという事実です。セキュリティ業界に関わりのない大半の人々には理解しにくい話かもしれませんが、彼らにとって「安全な通信チャネルとしてのSkype」と「政府が覗き見できる場所としてのSkype」との違いは、すなわち「生」と「死」(控えめに言えば「通常の生活」と「長年にわたる牢獄生活」)を分けるものなのです。
そういうわけで、政府の監視におびえずにすむ安全な通信手段を必要とする人々とそれに対する制裁とは、明らかに危うい関係にありますが、他の選択肢がないわけではありません。また、Skypeのピアツーピア基盤は長年にわたり魅力的な手段でしたが、その魅力もかつてと同様ではないようです。先に述べたように、Skypeのプライバシーポリシーの詳細や警察や司法当局への協力姿勢にあいまいさが残り、技術上の本拠地ですら十分に明らかにされていません。
幸いなことに、業界のすばらしく賢明な人々が、代わりとなるソリューションの開発に取り組んでいます – 有償ではありますが。Moxie Marlinspike氏はWhisper Systems社の創設で知られていますが、同社は通信とデータストレージを保護するためのオープンソースのツールを開発しています。Phil Zimmerman氏のSilent Circle社は、iOSデバイスおよびAndroidデバイス上で、エンドツーエンドの暗号化サービスを提供します。一般的なOSやプロトコルとの互換性があるJitsiは、チャットやビデオ会議、データ転送を安全に行うためのアプリケーションです。また、Open Secure Telephony NetworkのOstelは、ベータ段階ではあるものの、モバイルプラットフォームとデスクトッププラットフォームに対応する、暗号化と認証機能を備えたピアツーピア音声転送サービスです。もちろん、このほかにも選択肢はあるはずです。何かご存じであればコメント欄でお知らせください。
安全な通信プラットフォームに加えて、一般的なセキュリティ対策もお忘れなく。安全でないネットワークには近づかず、マルウェアからコンピューターを守る手だても講じておきましょう。