インターネットの世界が狭くなる

2016年5月30日

インターネットは人と人をつなぐと言いますが、これに異論を唱える人はいないでしょう。WWW(World Wide Web)を使えばヨーロッパに住む親せきに電話をかけたり、他州に住む仲間をFacebookで探したり、ケイマン諸島のどこかでちょっと変わった職を探したり…こんなことが24時間いつでもできるのです。まるで国や地域の境目が消えつつあるように感じることがあります。

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しかし、オンライン上の自由やインターネットの独立性という考え方は、十数年前から下火になり、衰弱し始めました。WWWは崩壊し(英語記事)、「インターネット」のかわりに「スプリンターネット」(Splinternet)が登場することもあり得ます。スプリンターネットという聞き慣れない言葉は、LAN(ローカルエリアネットワーク)が各国の地理的な境界線で分断され、現地法で規制される状態を指します。「インターネットのバルカン化」と表現されることもあります。

スプリンターネットがどのような姿をしているのか、非常によくわかる例が現代社会にも存在します。こうなった背景にはさまざまな事情があり、たとえば特定の地域におけるネットワークインフラの貧弱さ、政治、法律、さらには「歴史的理由」として驚くべき要因が挙げられます。

万里の長城2.0

政府の厳しい管理下にあるインターネットを目の当たりにするには、中国に行くしかありません。Facebook、YouTube、Twitterにアクセスしたり、BlogspotやWordPressで運用されているブログを読んだり、Vimeoで動画を見たりするには、中国のグレートファイアウォールをバイパスしなければなりません。中国の人々は一部のWikipediaにアクセスできますが、中国の政治に関する記事はブロックされています。

https://twitter.com/Socialist_Times/status/728749776854986752

こうしたWebサイトには、国内向けの類似サイトが存在します。ファイアウォールを越えてオリジナルのWebポータルへアクセスしたいという少数派の人々は、VPNを使わねばなりません。一般的に、中国でFacebookやYouTubeを探すような人は、これらを使ったことがある人だけです。主に、海外留学したことがある、外国人の友人や親戚がいる、英語教師やソフトウェア開発者の仕事でこれらのサイトにアクセスする必要がある、といった人たちです。それ以外の人は、国境に張り巡らされたファイアウォールはかなり便利だと答えており、大多数は保護されていないインターネットを閲覧する気がありません。

中国国内のVPNは、かなり遅いです。この亀のような遅さは、海外のWebに接続できる主要ゲートウェイが3つしかないという事実によって、ほぼ説明がつくでしょう。ゲートウェイは、北部(北京近郊)、中央部(上海)、南部(広州)にあります。トラフィックがこれらのゲートウェイを通過するとき、政府がパケットを「ミラーリング」して監視するのですが(英語記事)、これも処理が遅くなる原因の1つです。インターネットがいくら遅いとはいえ、この3つのゲートウェイの存在は、中国のネットワークと北朝鮮のイントラネットとの大きな違いと言えます。

北朝鮮:つつましいLANの集まり

北朝鮮の一部の国民は「インターネット」にアクセスできます。もっとも、それをインターネットと呼ぶことができればの話ですが。北朝鮮には、国民が誇りを持ってクァンミョン(Kwangmyong、漢字表記では「光明」)と呼ぶローカルネットワークがあります。クァンミョンは、WWWと物理的に接続されていません。

クァンミョンにアクセスする唯一の方法は、ダイヤルアップ回線です。このイントラネットには数千サイトしかないと推測され(英語記事)、コンテンツは朝鮮コンピューターセンターが作成しています。同機関がインターネット上から科学記事を選定し、政治的プロパガンダを少し足してから公開します。クァンミョンは公式には無料ですが、政府の規制があるため、アクセスできるのはごく少数の人だけです。そもそも、月収が約30ドルという平均的な北朝鮮国民にとって、コンピューターは高すぎます(英語記事)。WWWについては、大使館、選ばれた政府高官、特殊な部署だけがインターネットにアクセスできます。

それでも、北朝鮮が最新テクノロジーを完全に拒否しているとは言えません。それどころか、政府は独自のハッカーチームを結成し(英語記事)、諸外国に向けてサイバー能力を誇示するためにたびたび活用しています。Sony Picturesのハッキング事件の後、北朝鮮が自国のサイバー部隊を自慢していたのは、それほど昔の話ではありません。結局のところ、ローカルイントラネットは国民を世界から隔離するだけでなく、外部からの反撃を防ぐ役割も果たしています。攻撃を受ける可能性がほぼゼロであれば、海外の企業を何社かハッキングしたくもなるわけです。

インド:ネットが遅い理由

インドのインターネットがとてつもなく遅い理由は、基本的にインフラの貧弱さにあります。面白いことに、プロバイダーが光ファイバー回線に切り替えず、高速接続を提供しようとしないのは、高速インターネットに対する需要がないためです。なぜでしょう?それは、多くの企業がいわゆるFair Usage Policy(ネット回線を公正に利用するためのポリシー)に従っており(英語記事)、決められた以上の通信容量を利用した場合、アクセス速度が制限されるからです。

インド国民が認めているように、自宅に光ファイバー回線を引きたい人が10人もいれば、インターネットプロバイダーはすぐにでも敷設してくれるでしょう。こうした状況の常として、十分な数の利用者がいれば、プロダイバーは利用料を下げることができます。問題は、手を挙げてくれる人たちを集めるのが容易でないことです。誰でも最初に手を挙げるのは嫌ですから。

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1つのシャベルで3つの国をネットから遮断する方法

国全体のインターネットアクセスを遮断するには、経験豊富なハッカーチームが必要と言われています。ところが、ジョージア在住75歳女性、シャベル1個、保護対策の甘いインフラ、が揃えば十分だと判明しました。

2011年3月、この女性はジョージアの首都、トビリシからあまり離れていない場所で銅を掘っていました。「探索作業」の最中、シャベルで光ファイバーケーブルを破損してしまいました。このケーブルは、アルメニア国内インターネットトラフィックの99%を供給し、さらにジョージアとアゼルバイジャンの一部地域にもトラフィックを伝送していました。こうして3月28日、これらの地域は12時間もの間、オフライン状態に陥ったのです。

調査の結果、このケーブルは銅やジャガイモを掘る人によって何度も傷つけられていることが判明しました(英語記事)。1年前も似たような事故が発生していたのですが、運よく大惨事には至らなかったようです。違う人がたびたびケーブルに接触する、という同じような事件が繰り返されるのは、ジョージアの天候で説明できます。

ケーブルは、黒海を通ってポチの港からジョージアの領地に入ります。その後、分岐してアルメニアとアゼルバイジャンへと配線されています。ケーブルは破損しないように、道と並行して走る地下トンネルに埋められています。しかし、豪雨が襲うと土手が崩れるときがあります。どうやらこうした時季に、ジョージアの老女や何かを掘っていた人たちがケーブルを掘り当ててしまったようです。

インターネットバックボーンは、ご紹介した以外にも数々の特筆すべき事件に見舞われながら、生き延びてきました。2013年、エジプトで3人の銅採掘者が有色金属を探していたところ、水中ケーブルの一部を切断してしまいました(英語記事)。その結果、同国のインターネット速度は60%も低下しました。2008年にもアレクサンドリア沿岸近くで同様の事件が発生し、エジプト、インド、パキスタン、クウェートが被害を受けました(英語記事)。

ですが、エジプトにおけるインターネット停止については、彼らだけが責められるべきではありません。2011年には、エジプト政府も同様にインターネットを遮断しました(おまけに携帯電話網も)(英語記事)。しかも、現地プロバイダーに電話しただけで、ネットを遮断してしまったとのこと。これ以上の強硬措置はありません。

しかし、この問題はエジプトだけにとどまりません。インターネットが制限されている国は、ほかにも多く存在します。昨年、NGO組織のFreedom Houseは『TOP 10 countries with the most censored Internet』(インターネットの検閲が厳しい国のトップ10)という報告書(英語)を発表しました。

最後におまけとして、Renesysが作成した世界地図をご紹介します。この地図は、どの国がWWWからすぐに遮断されうるかを示したものです。たとえば、ロシアと米国は数十のケーブル回線を介して全世界とつながっており、遮断するのは難しいでしょう。インフラがあまり発達していない国は、遮断されやすいと言えます。たとえば、シリア、エチオピア、ウズベキスタン、トルクメニスタン、ミャンマー、イエメンなどです。

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