2017年3月14日

ブロックチェーン:熱狂は消えたが確かな足取り

テクノロジー

1年ほど前。大勢の人々が、熱狂的な支持者も根っからの詐欺師も一様に、ブロックチェーン万能説を興奮気味に説き始めました。「ブロックチェーンは世界を永久に変える」。信奉者たちはこう予測しました。分散型台帳であるこのテクノロジーは、究極の透明性を備えた取引を実現する。従来の決済システムは歴史の彼方へ追いやられ、世界中の中央銀行が一変するだろう。

ブロックチェーンの登場により、他にも多くのものが廃れていくとみられていました。たとえば、ブロックチェーンのおかげで文書の認証が不要になり、GPSデータで配送状況を確認できるようになるため、商品が配送先に届いた時点で自動的に決済されるようになる、と熱心な信奉者は説きました。要するに、ブロックチェーンを使いさえすれば不便はなくなるのだ、と。

しかし、大騒ぎする人々からは、この魔法の仕組みに関する冷静な説明は出てきませんでした。また、ブロックチェーンは高い処理性能を必要とするため膨大な取引(たとえば数万件の取引。現代の決済システムで1秒あたりの処理数)を処理できない、という問題点が指摘されたほかには、ブロックチェーンの欠点を敢えて言おうとする人もいませんでした。

しかし、2016年の終わりには、あれほど活発だった布教活動の声は聞こえなくなりました。今こそ、このテクノロジーを冷静に見つめ直し、ブロックチェーンとは何か、なぜブロックチェーンが根本的な変化をもたらすことができるのかを解明するときです。

ブロックチェーンとは

一言で言うと、ブロックチェーンとは取引の鎖です。この鎖(データベース)の各ブロックには、直前のブロックに関する情報が入っています。この情報を、誰にも気づかれずに変更することはできません。採掘者(マイナーとも言う。プロセスを制御または保持する人)が取引データを確認した時点で、そのブロックは変更不可になります。ブロックの内容は誰でも参照できますが、ハッシュチェーンで保護されています。データベースにはすべての取引に関する公開情報(暗号化されていない)が入っていて、情報は非対称鍵で署名されています。

ブロックチェーンについてはこちらの記事で説明されているので、ここでは詳しく説明しません。要するに、ブロックチェーンを使うと、(理論上は)信頼性が高く、改竄不可能なデータベースが手に入ります。偽の決済確認証を見せて、取引したふりをしようとしても無駄です。期日通りに支払ったけれど取引の処理に時間がかかった、という言い訳もできません。相手が銀行ならば交渉の余地もありますが、ブロックチェーンの場合は不可能です。すべての操作が変更不可ですし、政府機関の関与も必要ありません。

採掘者は大勢います。誰もが透明性と信頼性を求めています。規制機関や独占企業を好む人はいません。なのになぜ、ブロックチェーンを見かけることがないのでしょうか?

何でも速くなる、わけではない

ブロックチェーンの専門家は、この分散型台帳を使えば、日単位だった取引時間が分単位に短縮されると言います。確かにそのとおりです。しかし、この話には続きがあります。専門家が話題にしているのは、多数の関係者や対象物が関与する複雑な取引なのです。たとえば、建物の建設予定地として島を購入する場合がそれに当たります。ブロックチェーンで保護された取引手段を採用すれば、検証作業や履歴調査にかかる時間は従来の方法でやるよりかなり短縮されます。

検証や調査を従来の方法でやると、大勢の人が山積みの文書や資料を調べて土地、建物、担保の状況を確認し、なおかつ書類の信頼性も同時に検証しなければなりませんが、ブロックチェーンなら、これらの作業が一瞬で完了します。購入対象が確認され、代金が支払われ、新しい所有者の名前が次のブロックに継承される。以上です。(ただしここでは、島の情報をブロックチェーンに入力する作業は考慮していません。不動産取引にブロックチェーンを取り入れることを真剣に考えているなら、できるだけ多くの物件に関する所有者履歴を集め、ブロックチェーンデータベースに入力する必要があります。そうしなければ、うまくいかないでしょう。)

しかし、個人間の送金のような単純な取引では、処理速度が上がりません。むしろ逆です。ブロックチェーンはBitcoinをサポートするために開発されたもので、コンピューターの処理能力に関係なく、ブロック作成にかかる時間は10分と見なされています。また、2,016ブロックごとに自動調整が行われるため、さらに時間がかかります。一方、このような取引を従来の集中型システムで処理した場合は1秒ほどで終わります。

各取引に大量の(しかも増加し続ける)データが関連付けられている、というのも辛いところです。数ドルの取引を行うたびにメガバイト単位のデータが行ったり来たりすれば、どんなコンピューターシステムでも耐えきれません。

また、いつでもどこでも完璧な透明性が求められるわけではありません。ブロックチェーンは高い精度を誇る専門ツールですが、その用途は幅広くはありつつも限りがあります。規制機関や既存の決済システムに対する万能の解決策ではありません。

まったく新しいテクノロジー、ではない

分散型データベースが脚光を浴びたのは、80年代後半です。強力なコンピューターがローカルネットワークを形成し、やがてグローバルネットワークに発展すると、中央ノードを介さなくても正確なブロックデータを送信できるようにすることが急務となりました。この仕組みに特に興味を示したのは、防衛関係者です。どのようなトラブル(たとえば核爆発)が起きても、ある地点から別の地点にパケットを渡し、同時にデータの完全性と転送の成功を100%保証する必要があったためです。

ブロックチェーンは、安全かつ秘密裏の金融取引に利用できる高度な分散型データベースの中の1つにすぎません。Bitcoinを生み出したのは中東の新たな反政府組織へ誰にも気づかれずに資金援助する方法を探していた軍関係者だ、と信じている人もいます。これは、規制当局が多少の不安を抱く理由の1つでもあります。刺激的な新テクノロジーの登場は素晴らしいことですが、何年か使ったところで「実はそのテクノロジーを生み出した謎の人物がバックドアを仕込んでいた」などと判明したら、大問題です。

必要な規制当局、不要な規制当局

理想的な「ブロックチェーンの世界」では、政府は取引にほとんど関与しません。個人も組織も、お互いに「ブロックチェーンは信頼性が高く、取引に使用するべきである」ことに合意した上で、使用します。

しかし、現実の世界には他にも規則があります。大きな権力を持つ誰かが、状況をコントロールしなければならないからです。たとえば、AさんがBさんに商品の購入代金をBitcoinで支払うと約束したのに守らなかったとしましょう。不当な扱いを受けたBさんが裁判所に訴え、損害賠償や処罰を請求できるようになっていなければなりません。現在、このような仮想通貨での取引は法的なグレーゾーンで行われています。ブロックチェーンによる取引を現実の世界で機能させるには、トラブル(被害)に対処するためのシステム、つまり、裁判所が規則を施行するための法令を作る必要があります。

また、こんな場合はどうでしょうか。ある先進的な銀行がブロックチェーン取引を扱うと決め、実施に踏み切ったとします。さて、中央銀行はどのように反応するでしょうか。これが大規模な取引であれば、この銀行は、ただちに営業許可を取り消される可能性が高いでしょう。つまり、このような取引を合法化するには、政府が法令をいくつか可決しなければならないのです。

もちろん、ブロックチェーンを導入すれば、中央銀行は取引の制御や検証から解放されるかもしれません。しかし、ブロックチェーンを採用したからといって、世界が完璧な場所になるわけではありません。やはり、法律や法律の施行は必要です。

トーンダウンしたのはなぜか

ブロックチェーンを巡る過熱ぶりは、近ごろ収束しています。ブロックチェーンコンソーシアム「R3」に意気揚々と参加した金融機関のうち、2016年秋に脱退を決めた銀行もあります。これは、ブームが終わったということでしょうか?ブロックチェーンも、メディアにとってはいわゆるオワコンなのでしょうか?

実はまったく正反対です。静かになったのは、ブロックチェーンを声高に支持していた人たち、つまり熱狂的な信奉者と詐欺師でした。その一方で、IBMのような大企業はいくつものプロトタイプを開発し、現在はベータバージョンに取り組み始めています。こうしたソリューションは、先ほど説明したような流通、取引の証明、不動産、ビジネス文書のやりとり、文書交換などを用途としています。これらのソリューションがどのような問題の解決を目的としているのか明確ですし、利益を上げる可能性も見えています。つまり、ことさらに誇示する必要がないのです。作業は着々と進行中で、今の状態は嵐の前の静けさと言えるかもしれません。

ブロックチェーンを巡るこの先は

カナダ中央銀行はパートナー企業とともに、ブロックチェーンをテストするためのプロジェクト「Jasper」を立ち上げました(英語記事)。当然ながら詳細はそれほどつまびらかにされていませんが、いくつか興味深いことが明らかになっています。金融の世界ではあらゆるものに対して規格が適用されなければならず、ブロックチェーンも例外ではない、Jasperは中央銀行なしでは機能しないだろう、というのです。そうなると、検証者(採掘者)は何人必要でしょうか?また、ブロックへのアクセスは誰に一任されるのでしょうか?難しい問題です。

このような試みに加え、製品の「革新性」を打ち出すために「ブロックチェーン対応」を謳おうという試みもあります。しかし、犬の身体に魚の尻尾をつけても、犬は人魚になれません。

ブロックチェーンも、誇大広告に苦しめられる重要技術の1つです。私たちは、さまざまな技術が同じ目に遭っているところを見てきました。クラウド、P2P、ビッグデータ、などなど。まず、興奮した熱狂的支持者がやってきます。その後に、皮肉な笑いを浮かべた懐疑論者が続きます。ところが、行列が通り過ぎると、そのテクノロジーがあちこちで普及し出します。ただし、ほとんどの場合、最初に謳われていた用途とは異なるのですが。

ブロックチェーンは、さまざまな企業や垂直市場に進出しようとしています。いわゆる、「プライベートブロックチェーン」の形で。このブロックチェーン同士が情報のやりとりを始めるまでには、まだ多少時間がかかるでしょう。

ただ、公証人たちは、そろそろ心配し始めたほうがいいでしょう。少しくらいは。