2017年3月6日

スマートフォン使用は、悪か

テクノロジー ニュース 特別プロジェクト

情報セキュリティに従事する私たちは、「ITの脅威から世界を守る」を社のスローガンに掲げています。しかし、それは決して「ITを使わないでおきましょう(なぜなら危険がいっぱいあるから)」という発想ではありません。ITが発展し、私たちはそれを利活用することで、便利で豊かな生活を享受しています。その一方で、IT利用の中に危険は存在することを認識した上で、いかに安全にITを活用した生活を送ることができるのか、ということを私たちは考え続けています。

さて、先ごろ、日本医師会と日本小児科医会が連名で、あるポスターを発行しました。
http://www.jpa-web.org/dcms_media/other/sumahonojikan_161215_poster.pdf

これは、主に児童生徒(場合によっては未就学児)と彼らの保護者に向けて発信しているメッセージだと思われます。ポスターでは、スマートフォンを使うことで以下の問題が生じると指摘されています。

  • 体力がつかない
  • 睡眠時間の減少
  • 視力が落ちる
  • 学力が下がる
  • コミュニケーション不足
  • 脳機能の発達遅延

スマートフォンの使用が問題を生む可能性を持っている、という指摘はそのとおりかもしれません。しかし、このポスターでは「長時間使うと」という前提が、おそらく全項目に当てはまると思われるにもかかわらず、脳機能の発達遅延についてのみ言及しているだけで、全体としてはスマートフォンを使うと危険(使うのはダメに通ずる)と見えてしまうのが非常に残念です。また、少し考えてみると、いくつかの項目はスマートフォンの長時間利用がなくても起き得ることに気付きます。

さらに注意深くみると、視力悪化については指摘内容に疑問を抱いてしまいます。スマートフォンが普及したのは、直近10年未満(iPhoneが日本で発売されたのは2008年中盤、Androidはその翌年)です。小中高生が一般的にスマートフォンを持ち始めたのは、さらにその後と考えられます。参照されているグラフを見るかぎり、2010年以降の数値はほぼ横ばいです。医学的見地から、スマートフォンの使用で視力が落ちるという、別の根拠がほしいところです。

学力については、スマートフォンを使うほど成績が下がってしまうことを棒グラフで示してあります。参照されている国立教育政策研究所の調査結果は公開されており、数値はこのとおりです。しかし、この調査は勉強以外のスマートフォン利用時間(インターネットや通話、メール、ゲーム)と学業成績との相関を調べたものです。もう少し詳しく言うと、

  • 普段(月~金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、テレビゲーム(コンピュータゲーム、携帯式のゲーム、携帯電話やスマートフォンを使ったゲームも含む)をしますか
  • 普段(月~金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、携帯電話やスマートフォンで通話やメール、インターネットをしますか(携帯電話やスマートフォンを使ってゲームをする時間は除く)

の2段階の質問で調査を行い、それぞれの結果を示しています(ポスターで使用しているのは後者の質問の調査結果)。勉強しないで他のことばかりやっていたら、一般的にいって学業成績は振るわないでしょう。これはスマートフォン利用に限った話ではないように思われます。

「スマートフォンを勉強以外で長時間使うと学業成績が低下する傾向がある」というのが、調査結果を正しく伝えるものでしょう。これではインパクトがなく、メッセージが伝わらないとの判断でしょうか。

児童生徒・未就学児のスマートフォン利用は、長時間に渡る使用とその使用方法が問題または課題であるという点に尽きます。そもそも、スマートフォンは勉強や学習にも利活用されていないのだろうか、という疑問も残ります。スマートフォンを悪いものと決めつけるのではなく、家庭内や学校で大人(保護者・先生)と子どもの間で定期的に相談と確認を行い、よりよい使い方を探るべきではないでしょうか。