インターポールで働く:未来都市シンガポール

シンガポールに設立されたインターポールのサイバー犯罪対策部門、IGCI。そこには、Kaspersky Labから派遣されたセキュリティエキスパートが常駐勤務しています。シンガポールという都市について。

ヴィタリー・カムリュク(Vitaly Kamluk)は、10年以上もの間、Kaspersky Labでセキュリティリサーチャーの職に就いています。そしてこの半年ほどは、先ごろ開設されたIGCIINTERPOL Global Complex for Innovation:シンガポール総局)のあるシンガポールに赴任しています。ネイピアロードに建つこの巨大な未来型ビルの中で、世界各国から来た警察官が日々サイバー犯罪の捜査と防止に取り組むのを支援しています。

インターポールで働く:ブラックボックスの中で

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未来型都市に暮らして

シンガポールは未来型の都市国家と呼ばれることがよくあります。それは決して誇張ではありません。わずか数十年前に何もないところから築き上げられたこの国は、いまでは世界有数の富、快適さ、ハイテク環境を備えた場所となっています。コンクリートと金属とガラスとプラスチックでできた未来的な建造物が建ち並び、長いワイヤーとLEDライトの光の筋に取り囲まれた都市は、SFやサイバーパンクの映画、コミック、ビデオゲームでお馴染みの風景ですが、シンガポールでは実際に、太陽が地平線に沈むとき、この風景が現実のものになるのです。

とはいえ、シンガポールはサイバーパンクの定義に完全に一致するわけではありません。スタンダードな「サイバーパンク的」ポップカルチャーを表す要素とされていた「ハイテク&ローライフ」というコンセプトは、シンガポールには当てはまりません。ここではハイテクは、質の高い生活を実現する主な要素の1つだからです。政治面および経済面での賢明な判断と、最先端技術の積極的活用が功を奏しているのです。

カムリュクはこの未来都市に赴任する前、別の未来的なアジアの都市に暮らした経験があります。数年前に1年間、Kaspersky Labの日本オフィスでセキュリティエキスパートとして勤務していたのです。日本とシンガポールにはいくつか違いがある、と彼はいいます。

「日本は大好きですが、どこか『ロスト・イン・トランスレーション』の登場人物になったような気持ちでした。とても複雑な外国語が話されていて、自分とはかけ離れた文化を持つ外国に、1人でいるという感覚です。シンガポールではそういう気持ちにはなりません。シンガポールは厳密にはアジアの国ですが、他のアジア諸国よりもはるかに西欧的です。公用語は英語ですし、多くの外国人がここで暮らし、働いています」(カムリュク)

カムリュクは芸術家である妻とともに、大半のシンガポール市民と同様、市街中心部から遠くない場所にコンドミニアムの一画を借りています。週末は市内の美しい場所を散策したり、ツアーに参加したり、ときには15分で行ける海岸でビーチバレーをしたりして過ごします。

「気候は温暖で、面白い人々に出会えるし、面白い活動にも参加できるし、とても働きやすく暮らしやすいところです。治安も良いですし。最初にここへの転勤を持ちかけられたときは、期待に胸が躍る気持ちには全然なりませんでした。また、アジアのどこか馴染みのない場所で馴染めずに過ごすんだな、と思ったものです。でも今では、そんな心配はないとわかりました。ほぼ、ね…」(カムリュク)

4月初めのある日、カムリュクは、シンガポールでも特に有名な観光スポットであるガーデンズ・バイ・ザベイの関係者と話していました。相手はカムリュクに、「そんなことは絶対にあり得ません。私たちは一度も見たことがありませんし、ここでは見つかりませんよ」と言い張っていました。

実は、その少し前、こんなことがあったのです。カムリュクは妻と連れ立って公園の遊歩道を歩いている途中、何か木の枝のように見えるものを踏みました…すると、その枝はするりと動き出して茂みの中に這って行くではありませんか。枝のように見えたものはヘビだったのです。カムリュクは、まず自分の脚が無事であることを確認し、それから体内に意識を集中させて、アドレナリンが急激に大量放出されたために心拍数が上がっていることを検知しました。

「僕はサイバーセキュリティのエキスパートですが、アジアのヘビのエキスパートではありませんから、そのときは笑いごとではありませんでした。ヘビの写真を撮るチャンスはなかったし、どうしていいかわからなくなりました。ところが、どこも噛まれた様子はないことを確認した後が、実に興味深かったのです。頭の働きによって人間はしょっちゅう錯覚を起こしているでしょう?そのことをはっきりと自覚したのです。常識から考えれば何も心配することはないとわかっているのに、頭が勝手に、毒ヘビに噛まれたときの軽い症状を人工的に作り出してしまったのです。脚に違和感を覚えて、めまいやら何やらの症状のことを考えた瞬間、ふらつく感じがしてきて、ベンチに腰を下ろしたくなりました」。カムリュクはこう語ります。

「この体験から学びました。安全だと思うと気が緩むけれど、この世界で生き抜くには、気を抜いてはならない、とね」

「おい、裏庭にヘビがいるぞ、と誰かに言ったとしましょう。相手は、いやいや、いるわけない、と返してきます。人は、自分が踏みつけた棒きれが有毒なモンスターに変わるまで、自分の思い込みにしがみつくものです。セキュリティリサーチャーなら、これをIT業界に置き換えて考えてしまいますね」

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