#BionicManDiary(エピソード7):期限切れの男

2016年6月2日

いつか起こるのではないかと恐れていたことが、今日、ついに起きた。オフィスに到着し、回転ゲートに手をかざしたが…反応しない。私を入れてくれないのだ。

毎日、私が優雅にオフィスビルへ入っていくのを見慣れていた警備員が、何事かとやってきた。マイクロチップが初期化されなかったのだ。何度、センサーにタッチしても、ゲートは「アクセス拒否」というメッセージを示すばかりだ。私はいつものライフスタイルを奪われた。ジムやカフェテリア、オフィス、車、会議室 … どれも私を認識してくれなかった。皮肉なことに、マイクロチッププロジェクトで即時決済のテストをした、あのコーヒーショップも。

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まったく、なんということだ。いつもどおりのある晴れた日、あなたは家の鍵を失くす。それに気づくのは、鍵のかかったドアの前だ。足元では、「Welcome」と書かれたドアマットがせせら笑うようにあなたを見つめている。

そんなことになったら、動揺するに決まっている。想像してみてほしい。すべてを失ったのだ。裸同然、金も身分を証明するものもなく、アドレス帳も持っていなければ、FacebookやTwitter、LinkedIn、VK、Foursquare、オンラインバンクにもログインできない。何もかも失ったのだ!

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同時に、あらゆる種類のサメ、ドーベルマン、猛禽類があなたを取り囲み始める。システムはあなたを認識しない。あなたは単なる「身元不明」の人物ではない。「未知」の人物なのだ。あなたは「招かれざる客」で、その懇願に耳を貸すものはいない。今日私が感じたことを簡潔にまとめれば、こんな具合だ。

いい面もある。今日の出来事は、#BionicManDiaryプロジェクトをスタートした理由をまさに説明してくれる。私たちは、早い段階で不具合や誤動作を特定し、簡単明瞭便利至極な解決策を模索しているのだ。私たちは直ちにセキュリティ担当者を集め、私のチップに何が起きたのか究明を試みた。

担当者たちも神経が高ぶっていたことは認めざるを得ない。技術的に見ると、不具合の原因はごく些細なものだった。チップをセキュリティシステムに登録するとき、それには唯一無二の証明書が与えられる。もっと正確に言うと、複数の証明書の結合体だ。その1つの有効期限が切れていて、それに気づいたシステムが混乱し、直ちにあらゆるアクセスを無効にしたのだ。別途、お達しがあるまで。念には念を入れて。

私のアイデンティティが復元されるまでの間(奇妙な表現だって?しかし、客観的に見て、私がこの表現を使った最初のサイボーグになるのはそう遠い先のことではないはずだから、このつぶやき瞬間を覚えていてほしい!)、私の身に降りかかった問題をメモしておいたので、中でも極めて深刻だったものをここでみなさんと分かち合いたいと思う。

1. 友達や家族の電話番号を覚えていなかった。

まず思いついたのは、誰かに電話して助けてもらうことだった。しかし、ここで、私の記憶が新しいライフスタイルに順応してしまったことがわかった。私は毎日の生活に必要不可欠なたくさんのことを記憶している。たとえば、データ保管領域に設定されている45ケタのパスワードなど。しかし、電話番号は1つも覚えていなかった。家族のものも含めて。私の記憶は、一種のレジスタのように働いていて、電話番号ではなく、それが入っているディレクトリの場所が格納されていたのだ。

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マイクロチップで認証されなければ、電話帳にもアクセスできない。最初、警備員の電話を借りようとしたが、それも無駄だとわかった。私が思い出すことのできた電話番号は警察や消防などの緊急通報番号だけだったのだ。なんてことだ。

2. 瞬時にアクセスを断ってしまうのは絶対に間違っている。何らかの「中間状態」を認めるべきだ。たとえば、アクセスの「最終チャンス」のような。

現在の認証方法が完璧でないことはわかっている。「アクセス許可」と「アクセス拒否」の2つの状態しかない。「アクセス拒否」状態にされたら、完全にお手上げだ。そうなったのが実験台の私でよかった。また、私がオフィス、自分の安全地帯にいたのも幸運だった。ここにいたから、余計なストレスを感じずに、トラブルシューティングできた。

もしこれが一般ユーザーの身に降りかかったらどうなっていただろう?すべてを奪われ、森の真ん中に放り出されたら?あるいは、遠いところから車で自宅に帰る途中だったら?少なくとも、運転免許証の所有者であることを一時的に証明してくれる救急医療情報カードやデジタルIDのようなベーシックなサービスにアクセスできないと、自宅やオフィスにすらたどり着けないだろう。

3. もし、電気が止まったら?

とても普通でない、かなり現実離れしたシナリオなのだが、とにかく想像してみよう…街の、国の、さらには地球全体の電気製品すべてが動作を止めてしまったら?何百人、何千人、何百万、いや何億もの人が、今日の私と同じ目に遭うだろう。誰かプランBを立てているか?

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4. 人間ブロックチェーン

突然、すごいアイデアを思いついた(OK、反論も歓迎だ)。リアルな世界で、初めて会った人を私たちはどうやって認識している?パスポート(つまり、何らかの公的機関が承認した証明書)を見せる人はいないだろう。リアルな生活では、あなたの身元は、家族や同僚、親戚が証明できる。必要なのは、あなたの顔を見せるか、声を聞かせることだけだ。

これに似たようなことはインターネットでもまったく可能だ。デジタルIDの発行プロセスに、ブロックチェーンテクノロジーを使うだけでいい。

そうすれば、私のIDはブロックチェーンの一部となる。ブロックチェーンではすべての操作や接続は皆に知られていて、私という人物の信ぴょう性は事実ではなく、終わりのないプロセスだ。このプロセスは何らかの組織により検証されるものではない。サービスはそれぞれ、ブロックチェーンに格納されたデータを比較することにより、私がいつもと変わらぬ行動をしているかどうかをリアルタイムで確認できる。もし、いつもと変わらなければ、私は本当の私なのだ。