#BionicManDiary(エピソード6):チップを埋め込んだ男、「ヒトのインターネット」を語る

2016年2月15日

人類の夜明け以来、ヒトの世界は未知への扉の鍵を探し求める夢追人であふれています。長い年月をかけて、錬金術や古代の儀式、想像の世界に求めてきた鍵は、ついに科学とテクノロジーの中から見出されました。ほんの10年前は不可能に思えたことが、今では可能になっています。これはまだ始まりにすぎません。手を一振りするだけで、請求書の支払いが完了し、ドアが開き、情報を交換できるとしたら、あなたはどう思いますか?魔法?それとも現実?

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答は「現実」です。しかし、現時点でこれを経験できるのは、ほんの一握りの物好きな人たちに限られています。モノのインターネット(IoT)が広まるにしたがって、インターネットに接続された人間は、伝説のジェダイや魔法使いが物語の中で体感していたことを経験できるようになることでしょう。Kaspersky Labで働く私たちは、それがどういうものか少しだけ知っています。当社のバイオニックマン、サイボーグの「チェ」ことエフゲニー・チェレシュネフ(Evgeny Chereshnev)のおかげです。

チェの手にはマイクロチップが入っています。彼がチップを埋め込んだのは昨年2月、Security Analyst Summit 2015でのことでした。面白半分ではありません。世界のセキュリティをより強固なものにするためです。サイボーグであることとはどのようなものか、またそれにはどういう意味があるのか、チェはさまざまな視点から慎重に分析しています。その視点の1つが、サイバーセキュリティです。先日、チェはCampus Party Brazil 9(技術イベントの1つ)で、ブラジルの学生たちを相手に自分の考えを語りました。

マイクロチップを身に付けていると、何かと便利に思えます。鍵を使わずにドアを開けることができますし、パスワードや医療情報などを保管することも可能。メリットは数多くあります。

体にマイクロチップを埋め込めば、あなたもモノのインターネットの仲間入り。同時に、モノのインターネットもあなたのものになります。

マイクロチップを装着していると、アプリやサービスの品質に対してかなり批判的になります。ひどいコードやバグの影響をもろに受けて、つらい思いをすることになりますから。自分の持っている電子機器のあれこれがバグの影響を受けることこそなくなりますが、その代わり、チップと一体である自分自身に影響が及ぶのです。こんな経験をする人が増えれば、開発者もIoTのために「もっと良いコードを書こう!」という気になるのではないでしょうか。

このような実験に参加するには、いくつか方法があります。1つ目は、病院に行くこと。ただし、この方法は時間がかかる可能性があります。医師は保険や法律だけでなく、ハードウェアの埋め込みという新しい経験や医学的倫理についても考えなければなりません。もう1つの方法は、タトゥーやピアスのプロに頼むことです。チェの場合、タトゥーの達人に50ドルで頼んだところ、あっという間に新しいマイクロチップを手に埋め込んでくれました。

埋め込んだのはNTAG216 RFIDチップセットです(英語資料)。しかしチェによると、新世代のチップが近々発売されるので、現在手に入るチップセットはお勧めしないとのこと。ですから、今すぐ「サイボーグ」になりたいと思っても、よく考えてからにしたほうがよさそうです。アップグレードは、iPhoneの機種変更ほど簡単ではありません。新しいチップを埋め込む前に古いチップを取り除かなければならず、ちょっとした手術が必要になるからです。

チェは、最新世代のマイクロチップを使った自らの実験を、大いに議論の余地があるものだと考えています。一番の懸念は、マイクロチップを装着した人はIoTの一部となるだけでなく、文字どおりIoTの「T」、つまり「モノ」となり、身の回りにあるスマートデバイスと同列でネット接続するのだ、ということです。

ここから、差し迫った課題が新たに生じます…

ご存じのとおり、接続するたびにデータが生成されます。ネット接続中に自分がネット上でとった行動から、自分に関する多くのことがわかってしまいます。

データを収集されないようにするには、PCの電源を切るなり、スマートフォンを捨てるなりすればよいのですが、マイクロチップの場合はそう簡単にはいきません。また、体の一部がネット接続されていると、自分のデータを誰が所有しているのか個人的に知りたくなるものです。問題は、この質問に対する答えです。その答えとは、「みんな。ただし本人を除く」。

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官庁、検索サービス企業やSNS会社、ハッカー、マーケッター、ビッグデータのアナリスト…皆がそのデータを持っているというのに、データを作り出した本人は持っていないのです。この様子を中世に例えてみましょう。デジタル君主、データ収集人、データ所有者がいて、権限をほとんど持たない庶民(インターネットの利用者)もいます。君主は独断でどのデータを集め、どのように使うかを決定します。君主が私たち庶民に命じることは、使用許諾契約書の一番下に署名することだけです。

手にマイクロチップが入っているとなれば、懸念は一層深まります。チップに保管され、チップから転送されるのは、かなり重要性が高い個人的なデータなのです。第三者企業に使われるなど、絶対にお断りでしょう。体内に実在するものを誰かがデジタルの爪で掘り出そうとしたら、不安になって当然です。

これこそ、チェをはじめとする10人余りのKaspersky Lab社員が考え続けていることです。体内にチップを埋め込むことの良い点と悪い点を議論しながら、彼らはマイクロチップの使用事例を常に検討しています。このような議論から生まれたものを、私たちは発信してきました。この素晴らしき新世界では、準備を怠らないことがいつでも大切ですから。